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陽二サイド
一昨年婆ちゃんを、昨年爺ちゃんを見送って僕の家族はいよいよ、しろだけになった。
父と母と兄を一度に亡くした僕を引き取ってくれた爺ちゃんと婆ちゃん。
元々内向的な事もあって転校してきたこちらでも友達の出来ない僕を見兼ねた爺ちゃんが僕を元気付けようと、どこからか連れてきてくれた。
しろは真っ白な紀州犬。性格が穏やかで、のんびりしていた。僕の弟のような友達のような存在になった。
仔犬の頃は丸くなると真っ白な饅頭に手足がついてるようだったのが、次第に中型犬らしく、もりもりと大きくなっていった。大きくなる体に合わせて爺ちゃんが庭にある犬小屋を大きくしてくれた。気候の良い時は庭で、暑い時や寒すぎる時は家の中で飼っていた。
爺ちゃんが婆ちゃんの後を追うように居なくなってからも、僕はしろとこの庭付き一軒家で一人と一匹で暮らしていた。
しろは仏間でぼんやりする僕のそばに来て、手の甲を遠慮がちになめ、僕がいるよとでも言うように上目遣いで僕をみる。そしてその身を寄せてくれその温もりを感じさせてくれた。
しろがいてくれたおかげで寂しさも紛れなんとかやっていた。
それなのにある日突然、僕が仕事に行ってる間にしろが首輪だけ残して消えた。残された首輪を持った時の喪失感。
僕はとうとう1人ぼっちになってしまった…
しろがいなくなって寂しくて寂しくて、駅前の居酒屋で呑んで帰るようになった。
帰ると真っ先に、しろが帰ってきてないかなと庭の犬小屋を覗く事が日課となった。
いつもカランとしてるのに、今日は何かいる!しろ!しろが帰って…ん?はだか…裸のひと…?
じいちゃんの声が頭を駆け巡る。
「真っ白な犬は人間に近くて、来世は人間に生まれ変わると言われとる」
そうか、そうなのか!しろはわざわざ人間になってくれて戻って来てくれたんだ!!!
酔っていたとはいえ本気で信じて微塵も疑わなかった自分に思い出すたび、笑ってしまう。
でもその時、僕の胸にはまたしろが戻ってきてくれた、もうひとりぼっちじゃないという安心感というか、幸福感というか、兎に角自然と涙が溢れていたのは覚えている。
だから躊躇いなくいつものように抱きついた。
そして、服まで着て見せてくれたしろの手を引いてうちに入った。
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