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隣人(反魂香)
隣の空き部屋に入居者があった。そうと知れたのは本人が挨拶に来たからだ。
ある日、不細工なブザー音が鳴った。
はいはい、と言いながらドアを半分開けると、その男は立っていた。四十半ばくらい、痩せ型のすっとした感じだ。こんなボロアパートに住むようには見えないが、まあ余計なお世話だな。
「隣に引っ越してきた遠藤です。よろしくお願いします。あ、これ引っ越しの挨拶です、良かったら」
そう言って遠藤と名乗ったその男が10枚入りの市のごみ袋を差し出した。
ごみ袋は、いくらあっても有り難い。少し気を良くして、
「はあ、どうも、山下です、宜しく」
挨拶を返すと、突然失礼しました、とドアの前からいなくなった。
すぐに隣の部屋からバタンと、ドアを閉める音がしたので、どうやら引っ越しの挨拶は隣の部屋の俺だけらしい。
それからしばらくは、何事もなく過ぎて行った。
ある夜中、ふいに目が覚めた。隣から話し声が聞こえて来る。くぐもった声だが、確かに話し声だ。
スマホを手繰り寄せ目をしょぼしょぼさせて何とか目を開けて見ると午前2時だ。
特別うるさいとは感じなかったのでその日はそのまま寝てしまった。
次の日も話し声で目が覚めた。昨日と違うのは、話し声がやがて、あの声に変わっていったことだ。遠藤さんも男だそんな事もあるだろうと耳栓をして寝た。
次の日はいきなりあの声で目が覚めた。日に日にエスカレートしていく。
「もう、毎日はダメよ」女の声に、そうだそうだと相槌を打つ。
好きで見るAVと無理矢理聞かされる隣人のあの声は全くの別物、迷惑でしかない。一週間目とうとう、遠藤の家のブザーを押した。
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