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ドアを開けて出てきた眠そうな顔の遠藤に、
「遠藤さん、あの声、毎晩聞こえてますよ」
そう言うと、かなり驚いた顔をしていた。
「す、すいません」
深々と頭を下げる。
「一緒に住んでるんですか?」
「いえ、それは無いです、出来れば一緒に住みたいんですけど、無理なんで」
あんまりにもしょげ返っているのを見てつい、
「何で?」と聞いてしまった。
今俺は、遠藤の部屋のテーブルで茶を飲みながら、遠藤の話を聞いている。
何でと聞いて、すぐに後悔した。遠藤が泣いていたのだ。
わあああああ、やばいいいいいい、泣いているううううう。
この場を一刻も早く去らねばと、
「そ、それじゃあ、気を付けてくださいね」と踵を返そうとした時、手を、はっしと捕まえられ、泣きつかれてしまった。
「良かったら話を聞いてください~~」
「はい」って言うしか無いよね。
信じて貰えないかもですけど、と話し出した内容は、信じろと言う方が無理だ。死んだ妻が電話をかけると出て来てくれるというのだ。
それには制限回数が定められているらしいが、その回数が何回かは分からないという。
なるべく間隔をあけて呼び出したいが、寂しいので毎日呼んでしまう。妻も毎日使ってたらダメよというんだけど、我慢が出来ない。
・・・・・・らしい。
まあ、毎日はダメよとは俺も聞いた。いや、いやいやいや、でもでもだからと言って、信じられない。
「妻は2年前病気で」そこでまた、びーっと泣く。
「私は寂しくて寂しくて、仕事もままならず、会社を畳んでしまいました」
辞めたんじゃなくて、畳んだの?社長さんだったの?心の中は大騒ぎだが、こういう時は話を続けさせた方が良いはずだ。頷いて見せるだけにとどめた。
「家にいても妻を思い出してばかりなので、貸すことにしました」
おい、おい、鼻水垂れてっぞと思って見ていると、本人も気が付いたのか、目の前のテッシュに手を伸ばし、ちーんと鼻をかんで、
「妻と出会ったこの町にようやく来れました」
涙を振り払うかのように、目をしばしばさせている。
「すっかり変わってしまいましたが、探せば当時の面影も残っています。嬉しくなってあちこち見て回るうちに、よくすれ違う人と仲良くなって、打ち解けて話をするようになりました」
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