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世の中には、コミュ力ってのがばかに高い人がいるというけど、多分この人はそっちだ。挨拶したっきり、二回目が苦情を言いに来た俺にこんな話をしてくるくらいだ。すれ違う人とも打ち解けちゃったりするんだろう。
「「良いものがありますよ~」って、ああ、そうそう、その人よく見たら、すっごいイケメンでした。きっと山下さんもビックリしますよ。えっとですね、背が高くて~」
ほっといたらイケメンの話にすり替わりそうなので、ここは、遮らせてもらった。
「いいものって?」
「あ、そうそう、カードなんですけどね」
そう言って財布からそれを取り出す。銀色のような紫色のような、見る角度によって色が全く違って見える。
「この、カードが真っ白になったら終わりらしいんです」
「ふ~ん、何が?」
「だから、妻を呼び出せるのが」
「さっき電話って」
「あ、そうそう、ここにあるQRコードを読み込むとスマホにチャージされるんですって」
「それ、詐欺なんじゃ・・・・・・」
「僕も最初そう思いました。でも、それでも、もしかしたら妻に会えるかもって」
「で、電話した」
俺が訊くと、遠藤はコクコクと頷いた。
「そしたら、出てきたんです、妻が」
「どっから」
「知りません」
「えー」
それは、それで恐ろしい、オカルトじゃん。おっと、信じそうになってる自分に驚いた。
「えっと、じゃあ、間隔をあけて電話してみたらどうですかね」
もう棒読みで、一刻も早く帰りたいのを丸出しで言ってみる。
「そうしなければとは思うんですけど、出来ないんです~」
俺だって、ほぼ初対面の人に、泣かれても、知らないんです~。
「あ、そのイケメンさんに、何かアドバイスを貰ってみるってのはどうですか?」
我ながらナイスアイディア。
「それがもう、会えないんですよ」
「何でまた」
「さあ、すれ違うだけで、何処に住んでるともお名前も知らないんで」
ケロっとした顔で言う。
おい!肝心のコミュ力はよ!こんな怪しげな物貰うんだ、それくらい聞くだろ。
「そうだ!このカード、お貸ししますよ、そしたら今日僕は妻を呼ばなくて済む」
「え?」
「山下さんも、会いたい人がいらっしゃいますよね」
「え?」
「イケメンさんが言うには、このカードが見える人は、そういう人だって」
そう言われて、一瞬、頭がズキンとした。
「・・・・・・い、いや、俺はいい」
「いいですって、というか、人助けだと思って」
遠藤にカードを押し付けられた。
「時間は夜の12時以降です」
だそうだ。
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