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呼びたい相手なんていない…はず。
また、頭がズキンとして、呼ぶ権利なんてない事を思い出す。
なのに、勝手にQRコードを読み取っている自分がいる。
12時を回った。
遠くに投げ飛ばしたスマホを拾い上げる。
浮かび上がる電話番号、発信ボタンを震える指で押した。
「もしもし?」
懐かしい声に涙が溢れ出す。
「もしも~し?」百合子の声だ。
咳払いをすると、その声を拾ったのか、
「聡さん?」
と訊いてくる。
観念して返事を返す。
「うん」
返事をすると、どっから出てきたのか、百合子が立っていた。
「わあ、聡さんだ~」
百合子が俺の周りを嬉しそうに回る。
「なんでそんな嬉しそうなんだよ」
「だって、会いたかったんだもん」
抱き着かれてバランスをくずし床に寝転んだ。
俺の上に百合子が乗っている。
見上げた百合子の首には俺の手形がくっきりと見えた。
百合子の手を俺の首に回させ脱力した。
「ごめんな」
最後くらい謝っとこう。
「あの時、俺だけ助かってごめんな」
ずっと、言いたくて言えなかった言葉がやっと言えた。
「ごめん、本当にごめん」
涙はこめかみに流れっ放しだ。
「聡さん、大丈夫よ、一緒に行こうね」
百合子が微笑んで、俺を抱きしめた。暖かい光が俺を包む。
頭の隅で、カードを返さなきゃと思ったが、そこまでだった。
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