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空っぽの部屋に立つのは遠藤とイケメン。
誰もいないのに、生活音がすると言われていた部屋だ。
そんな部屋があっても、ほかの部屋は、安さで借り手はいたのだが、老朽化が激しくなり、ついにアパートを取り壊すことになった。
その際に、ここの大家さんから、
「山下さんが、まだあそこにいるような気がしてねぇ、なんとか成仏させてやれないでしょうか」と祓い屋の看板をあげてる遠藤に、依頼が来たのだ。
にっちもさっちも行かなくなって、先に愛する妻に手をかけてから、自分も、と思ったのに助かってしまった。
刑期は終えたけど、罪は残るんですって、言った言葉が忘れられませんよ。
こんな前科者入居させてくれてありがたいって、そんな事いいんだよって言っても、いつもそう言ってたました。
元々優しい人だったんだろうね、私や家内のような老人や、近所の子供たちに、本当に親切にしてくれて。
家内と、これからは、幸せになるといいねって言ってた矢先でした。仕事の帰りに、車道に出てしまった子供をかばって、ね・・・。
罪を償うことに未練が残ったんだろうね。まだ生きてるつもりでいるのかな。可哀そうに。
遠藤は、引き受けると、すぐにアパートに向かった。
大家さんの言う通り、もう誰も住んでないアパートに、山下だけが住み続けていた。
山下のいた部屋の真ん中にカードが落ちていた。
遠藤は、拾い上げると、そのまま死神に渡す。
「もう死んでるんだから、何のポイントにもならなくてごめんね」
すまなさそうにいう遠藤に向かって
「別にポイント制とかじゃないから」
死神が笑って答える。
「それに、死んでるって思ってない魂をあの世に導くのは大切な仕事だから、寧ろ感謝してる」
「じゃ、二人を連れて行くから、ここで」
そう言われて前を向くと、山下とそのそばに可愛らしい女性が立っていた。
山下はしきりにお辞儀を繰り返していた。
死神と二人に手を振り、遠藤は部屋を出た。
アパートの外には大家さんが心配そうに立ってこちらを見ていた。
「もう、大丈夫ですよ」
そう声をかけると、
「ああ、良かった、山下さんもやっと逝けたか」
良かったな、空に向かいそう言うと、ほっとした顔を見せた。
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