GONDA理美容室(権兵衛たぬき)

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GONDA理美容室(権兵衛たぬき)

 田舎の理容室兼美容室。祖父の代から3代目。 両方の資格をとって10年目だった5年前に親父から継いだ『GONDA理美容室』 名字の権田をローマ字に変えただけの店名だけど気に入っている。 都会でキリキリと働いていた時も面白かったけど、生まれ育ったこの土地は何より落ち着く。  来るのは主に老人と中学生までの子供達。高校は随分前に隣町に統合された。冬になると雪で閉ざされる山奥からは通学が困難になる為、進学すると寮生活となる。 長い休みの時に来てくれる子もいて、ちょっと大人びた子らを見られるのも嬉しい。 「じゃ、ありがとね〜」 そう言って最後の客、佐藤さんちのお婆ちゃんが、帰って行く。手押し車を颯爽と押す背中に 「家は近いけど、もう日が暮れるから気ぃつけて」 そう声をかけると、佐藤さんは振り返って握った手の親指だけを立てて見せる。僕は声を出して笑って見送る。染めたばかりのピンクの髪が綿菓子みたいに夕日に映える。  さっきまで、話してしたのは旦那さんの事。旦那さんも常連さんだったけど、入院して久しい。 「明日、見舞いに行くの、だから、じいちゃんをさ、びっくりさせてやろうと思って」 いたずらな目を輝かせて、白髪をピンクに染めたいとやって来た。  優しいピンク色に仕上がった髪を見て、佐藤さんは、満足気に頷いていた。
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