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お袋を亡くしてからずっと2人で暮らしてきた。その頃はまだここに高校もあったので、中高と毎朝欠かさずお弁当を作ってくれた。
決して楽ではない家計から、都会で修行して来いと専門学校に行かせてくれた。いつも笑顔で優しい父親だった。
そんな親父を一人で逝かせてしまった。病院から戻った事が悔やまれ涙が溢れて止まらなかった。
「芳也、お前が家に戻ってくれたから、こうしてここに来れたんだぞ」
僕の考えてる事がわかってるかの様に言う。
「なんたってこれから母さんに会うんだ、しっかりやってくれよ、お前プロだろ」
親父は俺の背中を撫でながら言う。
その言葉にはっとした。そうだ、僕はプロだ。鼻をすすり、涙を拭いた。
やつれていたはずの親父の顔は元気だったころの顔に戻っている。髪を切る間、色んな話をした。半年しか一緒に店に立てなくてごめんと言うと、半年も一緒に仕事できて嬉しかったと言ってくれた。病気にもっと早く気づいてやれたら良かったのにと言うと、自分でも気づかないんだもの、そりゃ無理だと笑う。
「だから、その事で自分を責めるんじゃないぞ、俺はお前が息子で本当に幸せだった、お前が俺のことで気に病むことなんてこれっぽっちもないんだ、わかったな」
そう言って笑った親父の顔は今でも忘れない。
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