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「こんな夜更けに悪りぃね」
佐藤さんが盆の窪に手ををやり、しきりに恐縮がる。
「いえいえ、今支度しますからね、座って待ってて下さいね」
店の電気をつけながら促すと
「おじゃまするね」
佐藤さんが、そろそろと入ってくる。店を静かに見回して、変わってないね〜懐かしいやと呟いた。
奥に行って顔を洗い手早く着替え、店にとって返してカットの用意をする。
「どんな風にします?」
「どんなって、今更、ふふふ」
照れたように佐藤さんが笑う。
「頑張りますから、さ、リクエスト言ってみて下さい」
こちらの張り切った顔を見て佐藤さんもその気になる。
「じゃあ、あの人みたいに」
往年のスターの名前をあげる。
「ちょっと待って下さいね」そう言ってスマホで検索。写真を見せると、
「そうそう、これこれ」
嬉しそうに笑った。
「これでもね、若い頃はこの人に、すこーしだけ似てるって言われたもんよ」
僕が鏡に映る佐藤さんの顔をまじまじと見て
「本当だ、よく似てる」
そう言うと、またまた、よっちゃんは口が上手いね、と言いながら満更でも無さそうに破顔する。
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