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丁寧に、丁寧に鋏を入れていく。
佐藤さんはいつものように船を漕ぎ出す。
「髪洗いましょう」
声をかけ椅子をそのまま倒して行く。
店を継ぐ時に一つだけは仰向けで洗髪できるようにした。
丁寧に、丁寧に洗い流す。これまでお疲れさまでしたと心を込めて洗い流す。
そのうち目を覚ました佐藤さんが口を開いた。
「髭もやって貰える?」
「勿論」
暖かくしたタオルを顔に乗せ、蒸らしている間に、シェービングの泡を立てた。
真夜中の店の中、ショリショリと髭をあたる音だけがする。
剃り終え、ローションをつけて椅子を起す。
「お疲れ様でした」
鏡越しではあるけれど、しっかりと顔を見て伝える。
佐藤さんも目をしょぼしょぼさせてうんうんと頷いてくれた。
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