GONDA理美容室(権兵衛たぬき)

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一人で逝くのかと心配になり 「おひとりですか?」 そう声をかけると、振り返った佐藤さんが 「道案内の人が待っててくれとるから大丈夫よ」 言いながら人影に目を向ける。 そこにはいつものイケメンが立っていた。   「お待たせしたね」 佐藤さんがそのイケメンに言う。 ああ、迎えに来てくれたのかとほっとする。 軽く会釈すると、向こうも会釈でこたえてくれる。 言葉を交わしたことは無いけれど、この時間に来るお客さんには必ず付き添ってくれている。 「お前さんも男前じゃけど、わしも男前になったじゃろ?」 「ええ、それはもう」 「お前さんも、よっちゃんと同じで口が上手いのぉ」 わははと笑う佐藤さんとイケメンさんの声が段々と小さくなり、姿もかき消えた。  店に戻り待合に置かれたお菓子の空き箱の蓋を開ける。 佐藤と書かれたポチ袋を取り出してまた蓋を閉めた。 親父が髪を切りに帰ってきた話しをした後、常連さんたちか戯れに作った箱。 蓋には『あの世に逝く前の散髪代』と、でかでかとマジックで書かれている。 了
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