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画面を見ると、血相変えた女が一人。少し前に別れた千夏。
今一番会いたくて、そして会いたくない人ナンバー1だ。2から先はいないけど。
「はい?」
呼び出し音に応えると、千夏は泣きそうな顔で、いや実際泣き出しながら、
「あああ、生きてたぁぁぁ」
とホッとした声を出し、画面から消えた。
と思ったら、また勢いよく顔が飛び出て来た。
しゃがみこんで、立ち上がったのね。驚いた。
「開けてくれる?」
遠慮がちに聞く千夏に、何の用かと尋ねると、
「いいから、開けて」
高圧的な口調で迫ってくる。2秒前のお前はどこ行ったんだよ。
ビックリして、思わず開錠ボタンを押していた。俺のバカ。
ドアの呼び出し音が鳴る。開けないで放っておこっかなと思ったけれど、
もう、ここまで来たならいいかと、しぶしぶ開ける。ドアチェーンはかけたままだけど。
そうっと、開けると、外からグイっと引っ張られた。ガシャン!
ドアチェーンがストッパーになってるのを見て、千夏は、俺を睨みつけた。
もう、その目が怖いんだよ。
「な、何?」
「ドアチェーン」
「何の用?」
「ドアチェーン」
「いやだからさ、」
「ドアチェーン」
声が段々、低くゆっくりになる。
負けないぞ、ここから中は俺の領域だ。絶対に負けないぞ。
「ドア、チェーン」
ゆっくりもう一度言うと、口が左右に引き伸ばされ、口角が上がり、凄みのある笑顔がさく裂。ヒィ。
負けました。
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