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グンっと凄い勢いでドアが開けられ、千夏が飛び込んで来た。
俺の頭の先から足の爪先まで見た後、ボディチェックよろしく、あちこち触る。
シャツとボクサーパンツいっちょです。隠すところはありません。怪しい物は持ってません。と言いたくなるくらいの気迫だ。
一通り触ると、良かった、とその場に崩れ落ちた。
さっき、エントランスに映ったやつだ。と言う事は秒で立ち上がるな。
そう思って身構えていても、一向にその気配はない。どころか、本格的に泣いていた。
「ど、どうした」
堪らず聞くと、カバンから、ミニタオルを出して涙を拭きながら、
「だって、警察から電話があって、あなたが・・・・・・」そう言ってまた泣き出した。
そのタオルハンカチ、俺が買ってやったやつだ。千夏が好きな絵本の原画展に行った時に、ミュージアムショップで楽しそうに選んでるのを見て、千夏の喜ぶ顔見たさに、5種類、全部買ったやつ。あれはもう何年前になるんだろう。まだ使ってくれてたのか。全然気にしてなかった。
「ちょっと、聞いてるの?」
ぼけっとミニタオルの事を考えているうちに、千夏は復活を遂げ、次の話題に移っていた。
「他のこと考えて、聞いてなかった」
「もう、いったい何考えてたのよ」
「タオル、それ、俺が買ってやったヤツなだなって」
千夏が、ミニタオルを握りしめた。
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