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「警察に、人違いだからって断れば?」
「そ、そうだよね」
千夏が電話をかけると席を外し、げんなりした表情で戻って来た。
「来てくれって、違うなら違うって言ってくれって」
上目遣いに俺をみる。
「な、なに?」
「ついて来て」
拝まれてしまった。
俺としても、同姓同名同年齢のやつに会ってみたい、と言う気持ちが無くはない。でも、そんな興味本位で、罰当たりな気持ちで行けば、本当にバチが当たるかも。それは嫌だ。必死に断ったが、
「ほら、あなたが行けば、より、違うって確たる証拠にもなるじゃない」
そう押し切られ、ついて行く、というか、俺が車だすのか。
署内に入る。普段、来る事のない場所に来ると、何だか緊張する。
受付なんてあるんだな。千夏が受付してる間、きょろきょろと内部を見渡す。
当たり前だけど、警察官ばっかりだ。
迎えを待っていると、向こうからスッとした体つきで、手足の長い、超絶イケメン警察官が、近づいてくるのが見えた。それまで、ワーワーとごねていた、酔っ払いのおっさんまでもが、大人しくなり、口を開け、その警官が歩く様に見とれている。
イケメンに制服は反則でなないのか。おっさんさえ、ぽーっとなっちゃうイケメンだ、千夏がどんな顔してるかと盗み見してみれば、千夏は俺を見ていた。
至近距離で目が合ってしまったのが気まずくて、慌てて、
「迎えが来たみたいだ」と言うと、俯いて、「分かってる」とぶっきらぼうに答えた。
わざわざすみません、と声をかけられても、千夏は、いえ、だの、はあ、だの、覇気のない声で応えている。イケメンが迎えに来たところで、面倒臭さが勝つのかと、思わず笑ってしまった。
イケメン警察官は、俺にも会釈をすると、では、こちらへと、先に立って案内してくれる。
霊安室には取っ手のついたロッカーが並んでいた。取っ手を引けば、ガッコンとレールに乗ってご遺体が出てくるんだろう。
『加賀谷良平』は、すでに台に乗せられていた。
隣で千夏が口を押え、目を剝いていた。何を驚いているのかと近づくと、良く見知った顔がそこにあった。
「俺?」
「え?え?」
台の上の加賀谷良平と、俺を交互に見ながら、理解が出来ないという顔で、え?を繰り返してた。千夏は軽いパニックになっている。
ぎゅっと手を握ってやる。
「俺はここにいる」
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