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その顔に、何だか知らないけど、無性に腹が立ってきた。
「すみません、意味が分かりません、それと、飛ばなくてもいいです」
イケメンは静かに着地すると、真っ赤な顔で咳ばらいをした。
「暗いけど、顔が赤いのわかるんですね、恥ずかしかったんですか?」
「・・・・・・恥ずかしいので、もう勘弁してください」
そう言うと、両手で顔を隠してしまった。
「先日、ちょっとホラーテイストの漫画を読みましてね、私もやってみたいなあ、なんて思ったもんですから」
ベラベラと語りだした。
「・・・・・・、なんなんですか?」
すみません、取り乱しまして、私こういうものです。と名刺を渡された。
いつの間にか自由になっていた体は、名刺交換を覚えていて、自然に受け取ってしまっていた。あまつさえ、持ってるはずのない、自分の名刺を出そうとまでしていた。
「死神・・・・・・」
目の前のイケメンが、頷きながらニコニコしている。不思議とそれに抗う事は無かった。
「やっぱり俺、死んだんですか?待って、じゃあ生きてる俺は誰なんですか?」
思念ですね。事も無げに云い放つ。
「思念って、千夏、いや一緒に来た彼女にもバンバン触られたんですよ?」
詰め寄ってみたけれど、
「あなたは、濡れ落ち葉に足を取られて、すっころんで、このような結果に」と、ミュージカルでも始まるのかと思う程、滑らかな動きで、上段から腕を振り下ろし、遺体を指し示す。
「すっころんで?」
思わず発した言葉に、死神は、あっさりと、本当は違いますけどね、と続けた。
「あの上司の仕業です。あなたに訴えられてしまう前に、消してしまおうと思ったんでしょうね。結果的に凶器も使わないで、うまくいったようです」
そんな。と、絶句してしまった。
俺はまだ生きたいんだ。
病んでしまった心も体も回復してみせる、仕事だって、見付けて見せるし、千夏とだってやり直すんだ。
・・・・・・でも、もう検視も済んだ体じゃもとに戻れないんだな。
希望とは裏腹に、観念するしかない状況で、自分の遺体を見下ろす。
千夏が心配だな。さっきまで安心した分だけ、反動がでかいだろうに。
可哀そうに、俺と付き合って、良い事一つも無かったな。
腹立つな。あのクソ上司。
「ですよね!!」
死神が元気な声を出した。
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