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パッと電気がついた。
何故かそんな気がして首を捻ると、
「違いましたか?」
警察官が聞いてくる。
「あ、いえ、あの、今一瞬、電気消えました?」
そう聞くと、いいえと怪訝そうにされる。
気のせいだったのかと思い直し、本題へ戻る。
目の前に横たわった人の顔を確認して、
「はい、間違いありません、元上司です」
そう答えると、気の良さそうな警察官に、ありがとうございました。では、あちらへと促され、退室した。
「終わったよ、ついて来てくれてありがとう」
廊下の長椅子に座っていた千夏に声を掛け、警察署を後にした。
「俺今無職なんだけど、頑張るから、その、やり直してくれない、ですか?」
助手席に座る千夏にやっとの思いで言うと、
「さっき、待ってる間に寝ちゃって、夢を見たの、そこでも言われた」
「あの間に?」
「そうなの、自分でも驚いちゃった」
と笑う。
目の前の信号が黄色から赤に変わった。
「いいよ」
その返事が嬉しくて、千夏の方を向くと、
「危ないから、ちゃんと前向いて」
照れながら前を指さした。
目の前の横断歩道を、超絶イケメンが、真直ぐ前を向いて歩いていく。
その手に真っ赤な風船を持って。
それはひどくゆっくりで、スローモーションのように見えた。イケメンがふと、俺の方を向いた、目が合うと、ゆっくりと会釈をしてきた。
つられて俺も会釈すると、
「誰かいた?」
千夏があたりをキョロキョロしている。前を指さすと、
「あ、風船だ、横断歩道を渡ってるみたいね、まさか、風船に会釈したの?」
と笑う。
ホントだ。風船だけが浮いてる。自分でも何で、風船に会釈なんてしたのか分からず、笑ってしまう。
二人で風船を目で追っていると、急にぐんと空高く舞い上がって行った。
「風が吹いたのかな」
千夏が呟いた。
青信号になり、車をゆっくりと発進させる。
「おなかすいたね、ラーメン食べたい」
「じゃあ、あそこへ行こう」
二人のお気に入りだったラーメン屋に、進路を変更する。
何か忘れている気もしたけれど、千夏の笑顔にそれもすぐに気にならなくなる。
「では次のニュースです」
カーラジオから、夕方のニュースが流れてきた。
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