ガンバレダイスキー(居残り佐平治)

1/12
前へ
/79ページ
次へ

ガンバレダイスキー(居残り佐平治)

 店の外で言い争う声がした。飲み屋街ではよくある事。 いつもなら放っておいても、喧騒に紛れて、やがて聞こえなくなる。  だけど、今日のは、店の前から一向に動く気配がない。なんなら、どんどんエスカレートしてるくらいだ。 待てど暮らせど客の来ない店内、カウンターの内側に引き入れた椅子に座り、だらだらとスマホを見ていた(だい)は、頭を上げ、声のする方に注意を向けた。  オジサンと若者、大きな声を出すのは専らオジサンで、若者の声は、合間、合間に、少し聞こえる程。  ただでさえ、閑古鳥が鳴いてるのに、店の真ん前でやられちゃ客が入って来れない。 まあ、喧嘩がなくても客は入ってこないだろうけど。そう思うが、万一って事もあるからなと思い直す。  なんにせよ面倒くせぇなあ、そう呟き立ち上がると、戸を開け、顔だけ覗かせた。 「あの~」 呼びかけた大の声は、喚くオジサンの声で搔き消えた。 今度は少し大きな声で呼びかけた。 「あの~、」 言い争ってる二人がこちらをびっくりしたような顔で振り向いた。 「すいません、うちの店の前で騒ぐのやめてもらえます?よそで、やってもらえませんかね」 大が言い終わると、若者がオジサンに向かって 「もう、わかりましたから、離してください」 と言うと、自分の腕を捉えていたオジサンの手を振り払った。 それはとても軽くあしらったように見えたのに、振り払われたオジサンが、こちらに、ぶっ飛んできた。  
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加