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「は?ちょっと!」
慌てて、首だけ出していた戸から出て、オジサンを受け止めた。
ちょっとだけ間に合わずに、尻もちはついてたけど。
そのオジサンに、ちらと目をやった後、
「乱暴はダメだろ」
と、言いながら前を向くが、若者の姿はもうそこにはなかった。
路地を行きかう人も、店の前で倒れてるオジサンと、その脇を抱えてる大には興味が無いように行き過ぎていく。
あの後、オジサンは何故か当然のように、大について店に入ってきた。
「いやあ、ごめんよ、店の前で騒いじゃって、しかも倒れないように守ってくれて、ほんと、ありがとう」
酒を飲んでは、それを繰り返す。
オジサンを守ったわけじゃない、店の戸に嵌められたガラスを守ったのだと、何度言っても、「またまた~」と、照れちゃってと言わんばかりの表情を浮かべる。
酒を飲み、礼をいい、いい店だと褒めた。
「いい店だね、こう、なんて言うんだろ、落ち着くね」
5人座ればいっぱいのカウンター、その後ろに4人座れる小上がりが2つ、大が立つカウンター奥に調理場。それだけの小さな居酒屋だ。
「はあ、ありがとうございます」
客ゼロで居心地がいいと言われてもと、若干引き気味に礼を述べた。
オジサンは聞いてもないのに、須藤と名乗った。
須藤はそれから1時間程上機嫌で陽気に飲み食いし、
「いや~、楽しかったよ」と伝票を手に立ち上がった。
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