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交番から帰って来た須藤の手には財布があった。
良かった~。
財布が見つかった事よりも、時計が返せる事を喜んだ。
偽物かもしれないけれど、もし本物だったらどうしようと、そわそわと落ち着かなかったのだ。
須藤はといえば、こちらは、財布があった事を喜んでくれてると思ったらしく、うっすら涙までためて、ありがとう、ありがとうと、仕舞には手を取ってブンブンと振るほど感激していた。
時計を返しながら、凄い時計ですねと言うと、
「占ったんだ」
と、意味不明の答えが返って来た。
「どうしようかと迷った事があってね、駅でぼんやりしてたら、競馬のポスターが目についたんだよ」
目をふせて、口にする。
「気づいたら競馬場行きのモノレールに乗ってた。初めての馬券、買い方も分からなかったよ」
係の人が教えてくれて買ったという。
「ファンファーレが鳴って、一斉に走り出すと、大きな声で名前を呼んで応援したよ、何度も何度も叫んだんだ」
一生懸命走ってる馬を見て、逃げるのを止めようと思ったんだ。
この馬券が当たったらとか考えてた自分が恥ずかしくなった。その気持ちの中にはどうせ当たらないんだからって・・・・・・言い訳だよね。一応考えました、けど運を天に任せた結果、止めましたっていう言い訳、卑怯だよね。
だから外れくじでも最初に思ったとおりにしようって思ったの。
そしたらさ、なんと!当たっちゃった、万馬券!
だはははと、それまでのいい話が台無しになる笑い方をしてみせた。
それでも、どうやら譲りたい相手がいるとかで、一応良い話に戻ってきた。
「あ、ごめんね、長話して」
そう言って須藤は財布を取り出した。
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