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「うちもうすぐ子供生まれるんで〜」
だからなんだというのだ。
「お金欲しい、買ってって〜」
アケスケだなおい。
聞けば、この冷蔵庫は売っても売っても返ってくるらしい。
その上誰もその理由を言わない、さすがに4人目になって頼み込んで聞いてみたところ、幽霊が出るという。
買取したお客さんとは連絡つかないので詳しくはわからない。
金髪店長は見たことがないという。電気を通してもみたが、やっぱり見えない。自分の目で確認したわけでもないので幽霊話は半信半疑でいる。まだ使えるんだけどなぁ、処分するのもなぁ、と言うことで破格の安さで出しているそうだ。
「ものは相談なんですけど、どうっすか?この冷蔵庫、お客さんなら見えないかもしれませんよ、試しに1週間使ってみませんか?」
金髪店長がグイグイ迫ってくる。断るのが面倒くさかったのもあるけれど、それ程の曰く付だと逆に興味を引かれたのも事実。他の家電と一緒に大型冷蔵庫も購入することにした。
搬入はすぐに今からでもOKっすよということだったので早速頼む事にした。
「じや、よろしく」
今から積み込みをすると言う金髪店長と別れ先にアパートに戻った。
リサイクルショップの軽トラックが駐車場に入る。
窓から見ていると、降りてきたのは金髪店長ただ一人。他のものはまだしも洗濯機とあの冷蔵庫どうするんだろうと思っていると、ひょこひょこと若い男がトラックの近くに歩いてきた。金髪店長が男に軍手を渡して積み荷を降ろしにかかる。
ドアを開けておいてやると、電子レンジを持った金髪店長と、掃除機をもった若い男がやって来た。
金髪店長が若い男を指差しながら
「こいつ、ここの大家っす、俺の友達なんすよ」と言う。
この若い男がこのアパートの大家・・・。その大家は機嫌のよい顔をして、
「はじめまして~、大家です~。不動産屋通してるとあまり会う機会がないんですけど、なんかあったら遠慮なく言ってください~」
ひたすらふんわかしている。
しかし、お前らどんだけ若いうちからしっかりしてんだよと驚いてると、金髪店長が心外だなという顔をして、
「こいつはただの跡取りってだけでしっかりしてないどころか首もまだ座ってないっすよ。多分うちの子の方が先に首座りますね」
ガハハっと笑い飛ばしている。
まだ生まれてもない子よりしっかりしてないと言われた大家を見ると、
怒るどころか機嫌よく笑っていた。なるほど…でも嫌いじゃない。
金髪店長とふんわか大家が手際よく運び入れてくれたのですぐに作業は終わった。全部の運び入れと設置が終わると、これとこれにフルネームでサインをくれと言われた伝票にサインをし、その後金を支払った。
金髪店長はその伝票を見ながら
「では、佐藤孝治さん、何かあったら連絡くださいね、健闘祈ります」
的外れなようで、そうでもなさそうな言葉を残して大家と共に帰っていった。
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