32人が本棚に入れています
本棚に追加
2階が住居になっている。通勤ゼロ分だ。一番奥の部屋を須藤が使うことになった、というか、その部屋しか空いてない。
以前は母の部屋だったが、今は物置兼小さな仏壇を置いてる。
仏壇があるんだけどと言うと、全然気にしない、寧ろ有難い、と訳の分からない事を言って大を笑わせた。
家具家電付の寮だったとかで、翌日には紙袋一つ持って引っ越してきて、大を驚かせた。須藤は物置と化した部屋を、あっという間に人が住めるようにした。キョロキョロとしながら、仏壇は?と聞いて来た。
「運べるサイズだから、俺の部屋に移しましたよ、さすがにちょっと嫌でしょ」そう笑うと、「あ、そう、そうなんだ」と言ったあと、大の顔を見て取り繕う様に笑った。
母が亡くなってからは、独り気ままにくらしてたので、最初こそ身構えたが、すぐにそれも気にならなくなっていき、約束の一月はとうに過ぎ、そろそろ三か月目に入ろうとしている。
須藤が働きだすと、閑古鳥が鳴いていたはずの店に人が戻って来た。
見てると、須藤はどんな客にも誠心誠意だ。待たせてしまう時も、必ず顔を見て一言いい、その後も「待たせちゃったごめんね」と一声かけている。
大は元々口数も少なく接客が苦手だ。どうしたら上手く接客できるのかを尋ねたことがある。
須藤は、ん?と一瞬考えた後で、
「簡単だよ、自分がして欲しくない事は絶対にしない。それだけだよ。まあ、あとは、上手くいってる時こそ、油断せず目を配る、そんなところかな」
と言った後で、今のはちょっと偉そうだったねと笑って見せた。
「大将、2名様だけど、小上がり、いいかい?」
店だと、須藤は大の事を大将と呼んだ。
客からオススメを聞かれると、
「今日?今日はさ、イカが上手いんだよ~、もう絶品!イカ好き?じゃあ、イカ尽くしにしちゃう?」
「大将、イカ尽くし2人前~」
メニューにない注文をしてくる事もあり、鍛えられる毎日だ。
最初のコメントを投稿しよう!