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その日もいつものように賑わっていた。
がらりと戸が開き、いらっしゃいませ~と振り向いた須藤の動きが止まった。
おや?と思い視線を戸に移すと、そこには若い男が立っていた。
須藤は、戸に駆け寄ると、
「すみません、満席なんですよ、すみませんね~」
と、有無を言わさない勢いで、ぐいぐいと若い男を押し出していた。
押し出すだけでなく、自分も一緒に外に出て、ぴしゃりと後ろでで戸を閉め、出て行ってしまった。
店内の客は自分たちの話に夢中のようで、大だけが戸を見ていた。
喧嘩が始まったらどうしようと内心緊張していたが、少しすると、須藤は戻って来た。大の顔をみて、バツが悪そうに頭を下げて、仕事に戻った。
何となく、それについて聞けないまま、三日経った。
若い男がまたやって来た。
今度は閉店間際。客も居なくなった時間だ。
またもや一緒に出て行ってしまったので、居ても立っても居られなくなって、手早く鍵だけしめて、探しに行くことにした。
少し歩くと、路地から声が聞こえてきた。須藤の声だった。
そっと覗き見ると、暗い路地で、須藤が頭を下げているのが見えた。
「お願いだよ、この通りだ、頼む」
「連れて行かないでくれ、この通りだ」
若い男が何か言ったが、聞き取れない。
連れて行く?須藤がどこかに連れて行かれるのかと思うと同時に、大は二人の間に飛び出していた。
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