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二人を見ている若い男が微笑んだ。
その時初めてその男が超絶イケメンだという事に気が付いた。
イケメンが須藤に向かって言う。
「何度も言ってるんです規則なんです」
さっきまで泣いてた須藤がまた嚙みついた。
「でも、あれだろ、ポキってやって分けられるんだろ?」
何を話してるのか分からない大を置き去りに、尚も会話が続く。
「それはそうですけど、もう、消えそうなんで難しいんですよ」
「だったら、三月前の方が上手くいったんじゃねえか!」
「そうなんですけどね」
「そうなんですけどね、じゃ、ねえ!」
「前も言った通り、生者同士ですと、両方に強い感情がないと難しいんです、だからその関係を築くためにと、三か月も譲歩してきたんです」
「ああ、じゃあ、さっきの、あれ、大が俺にかけてくれた言葉、あれでもういいだろ」
「なあ」
須藤が、ぽかんとしている大に急に同意を求める。
意味は分からないが頷いておいた。
イケメンが残念そうに、
「もうちょっとなんですけど、足りませんでした、時間切れです」
と言い、須藤から大に向き直った。
「ところで、大さん、私、見えてますよね」と尋ねた。
「は?はい」
「いつから見えてました?」
「いつからって、最初からかな」
そう答えると、超絶イケメンは大きく頷きながら、
「私、実は死神なんです。だから私が見えてるってことは、」
とそこまで言った時、大きな声で須藤が割って入った。
「そう、そうなんだよ、こいつは死神なんだ、なあ、大、俺死んじゃうんだってよ、嫌なんだよ、まだ死にたくないんだ、やりたい事あるんだよ、だからな、代わってくれよ、お前の命俺にくれよ、なあ、そしたらあのお目出度い、馬鹿女にあの世で会えるぜ」
そう言う須藤は、さっきまでとは全く違う顔だった。
信じられない豹変に、大の頭にカッと血が上った。母を侮辱し、自分勝手に命をくれと言うこの男に憎しみを抱いた。生まれて今日までの三十年分、一気に揺り戻しがきたような憎悪だった。
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