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死ぬのは俺の方だった。
俺が産まれてくる事を喜んでくれた人は、
俺が死ぬことを許さなかった。
「話したい事はまだいっぱいあるんだけど、また今度。今から母さんに謝りまくって許して貰うよ。頑張るけど、時間がかかるかな~」
とおどけてみせて、
「だから、なるべくゆっくりおいで」
と大の目を見て言った。
そして、あ!と思い出したように
「時計、貰ってくれる?」
と付け加えた。
もう行きますよとイケメンが急き立てると、
「何か困ったら、売っていいから、汗水たらして買ったものじゃないから、気にしないで使って」
早口で言うと、超絶イケメンと一緒にスッと消えて行った。
なんて遺言だと、泣き笑いで見送った。
次の日から暫く、須藤がいない事が客の口に登ったが、最初から一月の約束が延びていただけだと繰り返すうち、それも無くなった。
それからも客足が落ちる事もなく、時計も売らずに済んでいる。
縁あって彼女も出来、もうすぐ結婚する。順風満帆だ。
だけど、”上手く行ってるときこそ、油断せず目を配る”だなと、
壁に貼った新聞を見る。
何年も前、万馬券を叩きだした馬の記事と、その馬
「ガンバレダイスキー」が写っていた。
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