冷蔵庫(へっつい幽霊)

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 冷蔵庫のドアを開けると生首が! などは全くなく、その晩は何ともないただの冷蔵庫だった。 ただの冷蔵庫。 何だ?ただの冷蔵庫って…当たり前だろ。自分で思ったくせにふっと笑いがもれた。  次の日、仕事から帰って恐る恐る冷蔵庫を開ける。たかが冷蔵庫を開けるのになんだこのドキドキ感は。 よし、何も無い、ただの冷蔵庫!と確認し、ほっとしてビールを詰め込んでいると、後ろから 「お帰り〜」  声をかけられた。 「はい、ただいま〜」 何気なく返事してしまったが、ビールを詰める手が止まる。 待て待て待て待て!  冷蔵庫に頭を突っ込んだまま後ろを振り向けない。一人暮らしの部屋に誰がいると言うのだ。鍵だって開けて入ってきた。 「どうしたの?冷蔵庫から頭ぬけなくなった?」 また声がする。  幽霊か、そうか幽霊ね… どうしてそっちを考えなかったのかと我ながら思うけれど、こっちの幽霊ならば大歓迎だ。 冷蔵庫のドアを閉めてゆっくりと振り返る。ちょこんと座ってこっちを見ているのは、俺の唯一の家族にして大事な大事な嫁。 「タカコ…」 「へへっ来ちゃった」 タカコが笑っている。もうそれだけで胸が熱くなる。  にしても、へへっ来ちゃったって… 「一人暮らしどう?」 部屋をキョロキョロ見渡しながら普通に聞いてくる。 「まだ始まったばかりだから」 普通に答えてしまいながら、枯れ果てたと思っていた涙が止めどもなく溢れ出した。泣いてる顔を見られたくなくて下を向くと、タカコが立ち上がって近づいてきた。 「コウくん、ごめんね」 俺の手を取り顔を覗き込む。  心配そうな、すまなさそうな顔を見てしまったらもうだめだ。タカコを引き寄せ思い切り抱きしめて、タカコの髪の匂いを胸いっぱい吸い込んだ。 「いつまで買い物行ってんの?早く帰ってこないとだめじゃん」 縋りつくようにタカコを抱きしめる手に力を入れた。 「ごめんね、急に一人ぼっちにさせて」 「俺こそごめん、一緒に行けば良かった、何もしてやれなくて本当にごめん」 「コウくんのせいじゃないよ、これは本当、絶対に何にも悪くないからね」 「それに最期まで抱きしめて貰えてたから私ちっとも寂しくなかったよ」 タカコがふんわりと笑って見せてくれた。    
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