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ばかっ(死神)
その知らせを受けた時、思わず笑ってしまった。
なんともあの人らしい最期だと思った。
そのせいで知らせに来た刑事からあらぬ疑いをかけられそうになってしまった。
優しいけれど、ダメな人だった。
優柔不断で、怠け者で、嘘つきで。
恋人としてならまだなんとかなっていた間柄も、結婚生活にはまるで不向きな人だった。それを一番知っていながら、一度は結婚してみたいという、それくらいの理由で結婚してしまった自分が一番悪いと思っていたので、何とか耐えてみた。
カヨの収入で暮らせはしたが、カツカツだ。
セイジがのらりくらりとしているならまだ良い、やる気を出してギャンブルにでも手を出した月は、ため息が盛大にもれていった。
結婚して3年。たった3年。だけど、カヨにしてみれば長かった3年。
「ねえ、セイちゃん、離婚しようよ」
その申し出は、当たり前のような気もするが、セイジにとっては青天の霹靂だったようで、「改心するから別れんとってくれ」と言い募り、ついには泣きだした。
その必死さにほだされた自分を殴ってやりたいと思ったのは3カ月後。
改心とは?と自問自答するほどに、セイジは変わらない。
「ねえ、お金がもうないの、工面して来てよ」
無くはないけれど、そう強く出て見た。
寝っ転がって、スマホのゲームにに興じながら、
「ええ~、当てがないよ」
この男の頭には働くという概念は無いのか?
「セイちゃんが働けばいいんじゃない?改心するって言ったよね?」
口に出してしまうと、抑えていた感情が爆発したものか、怒りが沸々と沸いて来た。
「もう、疲れたの!養ってくれとは言わないけれど、せめて働いてよ!」
「ちょ、ちょっと待って、カヨちゃん、」
「本当にもうヤダ!疲れた!出て行って!あんたなんて豆腐の角に頭ぶつけて、」
そこまで言った時、唇を掴まれた。
「カヨちゃん、それから先は言っちゃだめだよ、僕だけじゃなくて、誰にもね」
少しの間の後、セイジは観念したものか、
「ごめんね、カヨちゃん」
ポツリとつぶやいた。
それがセイジと面と向かって交わした最後の会話だった。
暗い暗い一本道をカヨは歩く。
誰にも教えられたわけじゃないけれど、この道を辿ればいいんだと知っている。
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