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別れて暫く経った頃、セイジから電話があった。
反射的に通話ボタンをタップしてしまった。
「……何?」
「相変わらず、ぶっきらぼうだな~」
電話口から、からからと笑ってる声が聞こえてきた。
「あのね、僕仕事見つけたんだよ、営業、頑張ってるんだ」
復縁してくれだとか、金を貸してくれとか、そう言う話ではない。
カヨは知っていた。これは褒めて欲しい時の声音だ。
純粋に、ただ褒めて欲しい時の声だ。
「……凄いね」
それだけ伝えると、嬉しそうな弾んだ声で
「ありがとう、頑張るね!」
そう言ったかと思うと、
「じゃあね」
電話が切れた。
本当に褒めて欲しかっただけなんだ。
実害もないしブロックや着拒はしないまま。
その後も、何度か電話があった。
若い子と結婚するという連絡にも驚かされたが、すぐに
「やっぱりさ、離婚しちゃった、バツ2だよ僕」
呑気そうな声で言われると脱力しかなかった。
いつも、言いたい事だけ言って、こっちの返事を待たずに電話を切る。
勝手なんだから、もう。
ある日、夢を見た。
また電話が鳴ってる。
夢だと分かってるのに、律儀に出てしまった。
「カヨちゃん、こんばんわ」
「はい、こんばんわ」
「あのさ、今まで有難うね」
「何、お別れみたいな事言って、まあとっくの昔に別れてるけど、」
もごもごと言ってる内に、
「あのさ、僕さ、この世で一番カヨちゃんが好きなんだ」
「若い子と結婚したのに?」
「うん、してみて、わかったんだよ、僕はカヨちゃんが一番好き」
「ど、どうも、」
「照れてるね~、可愛いなあ。カヨちゃんの事幸せに出来なくてごめんね」
何を今更と思う。
そしてそれを口にしようと口を開きかけた時、
「あ、もう時間がないんだよ、だからね、僕の残ってる全部あげるね、ちょっとしかないけど」
「え?何が?」
「だから、あげるから、ね、」
全く要領の得ない答えの後、
「じゃあね」
「ちょっと、勝手に切らないでよ、なんでいつも勝手に切っちゃうの?」
「……、だって、カヨちゃんから切られたら寂しいじゃん」
「そんな……」
「じゃあね」
そう言ってまた切れてしまった。
夢の中とはいえ、リアルな感じに胸の中がわさわさと揺れた。
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