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○○豆腐店の角に車が突っ込んで、セイジが亡くなった。
やって来た刑事がそう言った。
あの時最後まで言わなかったから、いや、セイジが止めてくれたから、この話を聞いても、自分を責めなくて済んだ。どころか、笑ってしまった。
セイジにはどえらい保険金が掛けられていたようで、受取人はカヨになっていた。元夫の訃報に笑ってしまったからか、あらぬ疑いをかけられた。
疑いを晴らすために、散々嫌な目にあったが、無事疑いは晴れた。
カヨは後年、手を付けずにおいたその金で、闘病する事が出来た。
あの日、ビデオ通話でもないのに、全部あげるねと言いながら、消えそうな蝋燭をこれまたあまり長くない蝋燭にくっつけているセイジの姿が見えた。
その貰った1年で、カヨは行きたかった場所に行く事が出来た。
暗い暗い道を歩く。
超絶イケメンが目の前に立った。
「お嬢さん、一人?」
見上げたカヨの目から涙が溢れる。
「カヨちゃん、僕がわかるの?」
カヨの目に映るのは、セイジの顔。
「やっぱりさ、カヨちゃん僕の事すきなんだね~」
ニコニコと笑うその顔が憎たらしい。
「もう、ばかっ……」
「ねえ、僕今働いてるんだよ、皆の役に立ってると思うんだ」
褒めて欲しそうな顔を前に、泣き笑いで鼻をすすりながら言う。
「……偉いね」
カヨの言葉に嬉しそうに頷いて、胸を張って見せる。
そして、おもむろに手を取った。
「さあ、行こう、ね、カヨちゃんと一緒に暮らせるようにしてあるんだ」
繋いだ手に力を込める。
歩きながら、セイジが言う。
「あのさ、僕さ、嘘ついてた」
「何を?」
少しだけ笑いながら聞くと
「あの世にいってみたらさ、あの世でもカヨちゃんが一番好きだって気付いたんだよ。だからさ、下界だけじゃなくて、どこでも、そうだな、この世界一カヨちゃんが好きだった」
特大の笑顔を向けたかと思うと、しゅんとしてみせる。
忙しいやっちゃ。
そう言って笑うカヨを見ながら
「下界ではごめんね」
と項垂れる。
「うん」
「大好きだよ」
「うん」
「本当だよ!」
「うん」
「カヨちゃんは……?」
不安そうな顔に向かって言った
「私だってセイちゃんが一番好きだよ」
カヨの言葉に
今はもう名を持たぬ死神が
嬉しそうに笑った。
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