「そして、僕らは恋に落ちた」

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「エラい災難に合わせました。  まあ、掛けてください。  おい、天風堂さんの饅頭、  あったやろ?」 「はいはい、お茶いれます」 先生に言われた奥さんが 後ろの台所へ行こうとして 「手伝いますわ」 しのちゃんもついていった。 「ワシらも掛けさせてもらおか?」 「ほな、ちょっと」 お父さんとお母さんも 「・・・失礼します」 お姉ちゃんも座った。 けど、兄ちゃんはつっ立って お姉ちゃんの方に体を向けたまま。 「お見かけしない方ですけど  どちら様で・・・」 お母さんが気を遣いながら聞くと 「・・・あの、空港近く・・・  ゲートホテルに泊まってて」 「ああ、お仕事かなんかで?  飛行機会社にお勤めと言うても  不思議ない別嬪さんやから」 お父さんは笑いをとろうと してるんやけど 「いえ、ただ泊まってるんです」 お姉ちゃんは静かに答えるだけ。 「で、またなんであんな  観光地でもない裏山なんかに」 「 ・ ・ ・ 」 梅本先生が聞いても黙ったまま。 「お茶、入りました」 巧いタイミングで奥さんがお茶、 しのちゃんがお菓子を持ってきた。 「この饅頭ね、そこの駅前の  じぃさん・ばぁさんが細々  やってる和菓子屋の饅頭  なんですけど、遠方からも  客が来るくらいの逸品でして  まあ、一個、食べて」 梅本先生が饅頭を薦めたら 「いただきます」 さっきまでの無表情が消えて 皿を上下して饅頭をジックリ観てる。 その様子を僕らはジックリ見てる。 饅頭・・・初めてなんかなあ。
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