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 不思議な夢を見た。  白鯱が次々と海面から顔を覗かせて飛び上がっていく。見上げる程の高さまで何十体と空一面に舞う白鯱は、体を崩しながら弧を描き頭上を回り続けている。その光景を海上のテトラポットに座って眺めていた。ふと隣に気配を感じた。視線を隣に移すと、突如視界が暗転し目を覚ました。 確かに誰かいた。  なんとも言えない目覚めの悪い一日の始まりを告げられて、ベッドから体を起こした。  さっきの夢は一体何を知らせる夢だったのか。初めて見る類の夢に興味を覚え、ベッド脇に添えてあるテーブルの上からスマートフォンを手に取り、『夢 鯱』と検索した。すると、鯱がどのように夢に出てきたかによって、その夢の意味が変わって来るらしい。俺が見た夢は、鯱の大群が空に舞う夢だった。その項目が見つかり、寝ぼけ眼を擦りながら読んでいく。 『大切な人に幸運が訪れる』  夢を見た俺ではなく、周りの人間に幸運が訪れる。悪い事ではない。むしろ良い事の様に思える。だが次第に興味を失い、ベッドから立ち上がった。スマートフォンの画面に映し出されている時刻は、まだ朝の七時を過ぎたばかりだった。毎朝起きる時間より三十分は早い。二度寝をする程の眠気はなく、仕方なしにスマートフォンのアラーム機能を停止させた。  寝室を出て、リビングに備えてあるソファーに腰を下ろすとテレビを点けた。ザッピングを繰り返す中、どこのテレビ局も先日のニュースばかりを繰り返し報道している。 『新たな医学の進歩!? 救えなかった病に、新たな希望が訪れる時代へ』  似たようなキャッチコピーを、どの番組も使って報道していた。要は今まで治療が困難だった病気が治るかもしれないと言う事。地方の大学教授のコメンテーターが、保険認可が下りていないから医療費が高い事が今後の課題だと難しい表情を浮かべて話し出した。次第にそのコメンテーターの話し方や眼鏡を持ち上げる仕草が鼻についたので、テレビを消すと仕事場に向かう為に身支度を始めた。
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