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仕事場と言っても、行先は祖父が経営している不動産会社。祖父の正和と祖母の小百合の二人で経営している正和ホームに勤めて、もうすぐ二年になる。高校を卒業して自分の将来について何も考えず、ただ気の向くまま大学に進学して、当然のように遊び三昧の日々を過ごしていた。当時は大学一年生にも関わらず、俺は単位を落とし続けていた。見兼ねた両親が祖父の正和と計画を図り、俺を正和が所有しているこのアパートの一室に住まわせて正和ホームで働かせる事にした。  住んでいるアパートは築三十年を超えており、全部で八部屋の一LDKの間取り。俺が住み始める以前からこの二○一号室含め、二階の他三部屋は全て空室となっていた。一階の部屋は常に満室の状態で、住人達は正和の友人達。賃料は激安だったが、孫の俺が月三万円の家賃で住んでいるとは口が裂けても彼等には言えない。  祖父の正和は千葉県内に不動産を多く所有している。駅前の土地を始め、地方の山や田畑、駐車場として利用している土地など多岐に渡る。正和の家系が元来地主という事もあり、不動産会社を興した事を以前聞いた事があった。俺の父親が後継者として継ぐものだと正和は考えていた様だが、IT関係の仕事に就いたと聞いた時の正和が悲しんでいた事を祖母の小百合から聞いた事がある。父は正和にとって唯一の一人っ子という事もあった。  そんな思惑があっての計画だったのかも知れないと思ったのは、ここに住み始めてからだった。父が正和の会社を継ぐ事が出来ない。そこで白羽の矢が立った俺を、正和の会社で修業をさせて、後継者として育てていく。父なりの正和への配慮なのではないかと。  俺としては、この話を拒否する程の理由が思いつかなかった。正和や小百合とは幼少時から可愛がってもらっていたし、嫌いではなかった。むしろ自分がこのままの生活をしていていいのかと、焦りを覚え始めていた時期でもあった。大学の友人達と遊び呆ける日々の中で青春の日々を過ごす反面、二十歳が近づき成人という大人の枠に収まる怖さと窮屈さを感じ始めていた頃だったから。そして次第に不動産というものに興味を持ち始め、俺は正和にお世話になる事を決心した。
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