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 大通りを外房線が通る駅の南口に向かって歩き進めると交差点に差し掛かる。赤信号で立ち止まると、交差点の角に緑色の大きな立て看板が見え始めた。 『正和ホーム 不動産の事なら、何でもお気軽にご相談下さい』  俺が小さい頃に訪れた時の記憶では、看板の文字は風化されていて色褪せたものだった。今では近代的に仕上がっており、街の景観と調和されている。駅から徒歩五分圏内には正和の会社以外に不動産会社がなかった。少し離れた場所には大手の不動産会社が今でこそあるが、それには理由があった。  正和が先に述べた事業が開始する情報を聞き、駅前の土地に自社ビルや月極め駐車場を貸し出したからだ。正和は友人達に声を掛け、ビルのテナントには美容室や飲食店が立ち並び始めた。正和はライバル会社達に付け入る隙を与えなかった。俺が正和ホームに勤め始めるまでは、幼少時の優しい祖父というイメージのままだった。今こうして働かせてもらっていると、正和の仕事に対する先見の明や考えに頭が下がる思いだ。少なくとも父親より尊敬している。 信号が青に変わると交差点を渡った。一見すると、不動産会社には到底思えない程の二百坪の東南角地の敷地に二階建ての軽量鉄骨造りの建物。看板がなければ、ただの駅近の裕福な家。一階を店舗として利用し、二階は居住用スペースとなっているが、二階には殆ど正和と小百合は住んでいない。本宅が近くにあるからだ。俺からすれば勿体ない金の使い方をした建物だ。建物脇にあるガレージの横から敷地内を覗くと、正和の愛車であるメルセデス・ベンツは停まっていなかった。今日は二階に泊まっていないらしい。それを確認すると、建物脇から勝手口の扉まで歩いた。扉脇にあるセキュリティカードを掲げてロックを解除する。本キーを差し込んで、室内へと入って行った。
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