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かぎ爪のついた縄を獲物の船尾に引っ掛け、波しぶきを浴びながら伝い移る。下り立ったのはレッド号より大きいガレオン船。
真っ先にメインマストを見上げる。商船なら入港する国の旗を先端に掲げるのが習わしだが、そこに旗はない。
リュートは考える。暴風で吹き飛んだのか、と。
しかし、それはすぐに否定に変わる。襲われるのを恐れて降ろした、それならこの船はニューシタルハ行きだと導ける、と。
濡れた髪から海水を滴らせながら、リュートは満足そうに笑んだ。
ふと、今頃になって、船上には誰もいないことにリュートは気付いた。
下り立った途端に出迎えがあるのもいいが、相手の驚く顔を想像して楽しむのも悪くない。
後に続いて来た五人の男たちが、順々に船尾に下り立った。誰もが二十歳になるかならないかの年頃で、同じクジラ皮の胴衣を着ている。その内の一人が、愉快そうに言った。
「こんな悪天の日は、賊に襲われるはずがないって、思っているだろうな」
「ああ。高慢な奴らに教えて差し上げようじゃないか、答えはノーだってね」
彼らを見回して問題ないのを確認すると、リュートは伝ってきた縄を三度引いた。その合図を受け取った仲間は、船内に設けてある手押しポンプを押す。すると、レッド号の船底に仕掛けたクジラ笛が鳴るのだ。
リュートたちはその場で身を屈め、じっと待った。
仲間の一人が弱気な声で話しかける。
「来ないっすねぇ……この嵐じゃ、流石に無理なんすかねぇ」
「いや、いつだって来ているさ。ソールは嵐なんか問題にしない」
「でも、いつもはこんなに待たないよ」
「静かに」
力強い気配が迫るのを感じたリュートは、顔を上げて海上を見た。
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