私は自転車を押して彼女と並んで歩いている。彼女の表情は、芝居にしては真剣で切迫しているように感じたからだ。言っていることは重症の中二病患者のようだが。
「もう一度聞くけど、私のこと本当に覚えてない?」
しつこいくらい確認してくるので、実際彼女のことを忘れているだけなのではないかと思えて来た。記憶のどこかに彼女がいるような気がする。
「……正直に言うと、どこかで見かけたことならあるかもしれません。」
「それはいつ?どこで?」
「分かりません。」
少しだけがっかりした様子を見せたが、まだ彼女は諦めないらしい。
「何かのきっかけで思い出せるかもしれないよね。よし。」
横断歩道を渡りながら、彼女は若干声を落として語り始めた。
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