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はて? ビルが無くなってしまいました
私は都心に生まれて平凡な日々を送っていました。独身で身寄りもいない為、後は孤独に死ぬだけの人生だと思っていました。戦争も知らない争い事が苦手な位の臆病者、そんな私が一番好きな物はパズルでした。
今日も少ない年金を使って新しいパズルを買いに外へ出て、家の前にある小さなお地蔵さんにお供え物をして何時もの散歩道を歩いていた。すると、突然景色が一変しました。
「何故私は平原に居るのでしょう。都会の街並みが何処にも見当たりません」
振り返ってみても、辺りは草ばかり。此処は一体何処なのでしょう?
「グルル」
陽の光を遮る様に影がさしたかと思えば、上から何やら獰猛な肉食獣が獲物を見つけた時の様な唸り声が聞こえて来ました。
見上げてみれば、其処には見た事も無い程大きな翼を広げた蜥蜴の化け物が居ました。これはもしかしなくても私が捕食対象なのでしょう。
「交通事故に出会った感じなのでしょうかね。とても痛そうです」
防衛手段のない私が、熊よりもでかくて飛んでいる化け物から逃げる事など不可能。出来る事なら一瞬で命が無くなって欲しいと願う位しか残されていません。
「ガァァ!」
私に向かって上空から飛来する化け物。いよいよ私の命運は尽きようとしていたその時、一条の矢が何処からか飛んで来ました。
「グギャア!?」
矢は化け物の瞳に刺さり、絶叫をあげる。痛みからか狙いがそれて私の真横を通り過ぎる。しかし、ぶつかってもいないのに私の身体は舞い上がる。
「お願い風の精霊!」
誰かの声が聞こえたかと思えば、私の身体は何かに包み込まれたかの様に空中で静止する。
化け物の狙いが私から声を上げた者へと移り変わった。向いた方を見れば、其処には二人の若い女の子達が細身の剣と弓を引いて待ち構えていました。
「来るよ!」
「任せて! 風の精霊よ、ワイバーンを足止めして!」
彼女達に向かって猛スピードで突っ込んで行った化け物が、見えない何かに叩き落とされます。地面に向かって勢い良く突っ込み、辿り着けずにもがく化け物。
「トドメ!」
弓から放たれた矢が、化け物の脳天に突き刺さりました。ビクンと身体が仰け反った後、力無く崩れ落ちて行きました。
戦いが終わった様で、私はゆっくりと地面に降ろされました。包み込まれていた感触が無くなり、私は起き上がります。
「大丈夫だった?」
「助けて頂き、誠に有難うございます」
細身の剣を仕舞い近付いて来た女の子にお礼を言ます。弓を背中に仕舞った女の子は懐からナイフを取り出して化け物に近付いていました。
「町から結構離れたこんな所に、独りで荷物も無しに居るなんて気は確か?」
「私は先程まで近所の道を歩いていたのですが突然景色が変わり、気付けばこの場所に居たんです」
「見た事の無い服だし、もしかして放浪者?」
「放浪者?」
「貴方の様に、突然何処かからこの世界に飛ばされて来る者の事よ。ベールヘウト大陸って聞いた事あるかしら?」
「いえ、私が居た所は日本大陸でしたので」
「聞いた事の無い大陸ね、多分間違いないわ。貴方飛ばされて来たのよ、元の世界から」
「はあ」
「それにしても珍しいわね。貴方みたいに年老いた者がこの世界に飛ばされて来るなんて」
「何時もは違うのですか?」
「大体が若者か、良くておっさんね。白髪だらけの老人なんてこの世界で生き残るのは至難ですもの」
正しく助けが無ければ即死亡の危機に陥っていました。この日私は蜥蜴の化け物が当たり前の様に居る異世界に飛ばされ、二人の少女とも見える女の子達に出会ったのでした。
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