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ぼんやりと歩いて家につく。 何度も上杉の事を家に招いたことはあった。 だから、今までと同じ様に自分の部屋に通した。 「適当に座れよ。」 そう言うと、上杉は無言のまま床にべタリと座る。 いつもはなるべく近くに座る様にしているのだがとてもじゃないけれどそんな気分にはならない。 少し離れた、と言っても狭い部屋なのでベッドに寄り掛かる様にして座り込む。 上杉が息を飲んだ気がした。 「まず、これ買っておいたんで飲んでください。」 保健の先生が貧血だって言ってましから。と言いながら差し出されたのはココアとビスケットで、多分俺がぶっ倒れている間に学校近くのコンビニで買ったのだろう。 味がするとは思えなかったけれど、じいっと監視をする様に見つめられて仕方が無く口を付けた。 少しだけココアを飲んで、それからビスケットを食べる。 それを見届けた上杉は 「済みませんでした。」 それだけ言った。 今喉を通過したばかりのビスケットが、まるで鉛でも食べてしまったかのように重たく感じる。 「それは、やっぱり別れたいって話か?」 そんな事自分から言いたくは無かった。目の奥が痛い気がする。 だけど、上杉がもう俺のことをそういう風には見れないのであれば、それを上手く伝えられないのなら、やっぱりいつもみたいに俺が察してやるべきなのだろう。 「違う!それだけは違う!」 上杉は叫んだ。 彼が叫ぶところなんて、初めて見た。 いつも少しおどおどと話して、それからとても優し気に話していた上杉がこんな勢いでだけ話しているのを見たことが無い。 「……俺が怖がってばかりいたから、半田君に気ばっかり使わせてゴメン。 それから、すごく傷つけちゃってゴメン。」 「別に、気なんて使って――。」 「使ってるでしょ。半田君が助けてくれなきゃ俺話しかけることすらできなかった。 自分の事でいっぱいいっぱいすぎてやっと気が付いたんだよ。」 じりじりと上杉がこちらににじり寄ってくる。 その顔は少し泣きそうな顔をしていて、その表情を見ただけでこっちまで涙が溢れそうになる。 限界まで上杉は俺に近づいて、それから俺に手を伸ばした。 それで、俺の頬をそっとなでた。 「ずっと、ずっと好きなんだ。 なのに、手を振り払ってごめんなさい。」 「……そりゃあ、誰だって気が乗らない時位あるだろ。」 俺がそう返すと、上杉は首を振った。 「かっこ悪いけど、俺はいつだって、それこそ今だってしたいですよ。 だけど、かっこよくしなくちゃいけないって上手くできなくて、それで半田君がわざわざ誘ってくれたのに俺……。 一番かっこ悪かったのに。半田君ゴメン。」 全部俺に譲ってくれてたのに、ゴメン。半泣きになりながら上杉が言う。 俺は何も、上杉に譲って無い。 ただ、ああ、ただ、上杉の事が好きになってて、だからそれだけだ。 自分がしたかったから、上杉に触れたかったからそうしようとしただけだし、だから譲ってあげたことなんて無かった。 「譲ってなんかいない。俺は、ただ、ずっと、初めて話したときから、上杉の事が好きで、だから、俺はそんな大したもんじゃない。」 話す言葉は涙声になっている。 だって、上杉が俺の事を好きだってことに優越感を感じてたし、だからそんな大したもんじゃない。 上杉は俺を抱きしめた。 上杉の匂いだ。 「……キスしたい。」 ポツリと言うと、俺を腕の中に納めていた上杉は顔どころか首まで真っ赤にして、いいんですか?と聞いた。
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