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***
それから、約三十分後ーー
私は、三十分前まで同期の婚約者"だった"彼女と、夜の公園でブランコをこいでいた。
「ねぇ、佐藤。……今からでも人事に掛け合って、辞表を撤回してもらったら?」
ギィーコ、ギィーコ
「もういいですよ。さすがにあの状況で、また会社戻って仕事できるほど面の皮厚くないです、私」
ギィーコ、ギィーコ
「……だって、アンタ、そのお腹の子、どうすんのよ」
ギィーコ、ギィーコ
「どうしましょうかねー。ほんと、サプライズなんて考えちゃダメですよね。成功すればいいけど、失敗したらろくなものにならないって、身に染みて分かりました」
ギィーコ、ギィーコ
年期の入ったブランコは何処かが錆び付いているのか、軽くこぐ度に軋んでいるような、悲鳴のような、そんな苦しそうな音を立てる。
月明かりに照らされた夜の公園で、いい歳をした大人二人がブランコをこいでいる絵は、なかなかにシュールだ。
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