彼女は月の裏側で

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「あの人が言ってたんです……葉子さんに浮気されたって。次に付き合う人は、一途な人がいいって」 「……私、あの人の思うような一途な人にはなれなかったんですかね…………」 佐藤の切れ長の二重の瞳から、一筋の涙が溢れ落ちた。 ふんわり癒し系の可愛らしい葉子先輩と、柴犬みたいに人懐こい同期のカップルは、いつ見ても仲睦まじくて、いつか二人は結婚するんだってみんなが思ってたし、微笑ましく見守っていた。 ところが、この春に二人は別れて、すぐに同期は佐藤と付き合い始めた。 それから半年での、急な婚約。 噂では、佐藤が二人を引っ掻き回して別れさせて強引に同期の事をオトシたように言われてたけど…… 真実は、全く違ってたって事だ。 だけど真相はどうであれ、同期の心はまだ葉子さんに向いていた。 そして佐藤は、あの場にいた誰よりもそんな彼の気持ちが分かってしまったのだろうと思う。 「ーー私、めんどくさいの嫌いなんで、もういいです。全部無かった事にしてください」 そう言い放って居酒屋を出て行った彼女の背中には、未練なんて一つも感じられなかった。 ……ように見せただけなんだと思う。
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