彼女は月の裏側で

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これから同期は結婚します、と言って回った事を撤回しないといけない。葉子さんと結婚するかどうかは分からないけど、佐藤とだって結婚するつもりだったんだ。会社はもちろん、両親との顔合わせだって済んでるだろうし、これからも色々と大変になるだろう。 一時の感情だけで動いて、どうにかなるもんじゃない。 それを、やれ純愛だ、だの、こうなるのが正しい道だったんだ、だの盛り上がる同期達に、今日は心底嫌気がさした。 恋愛の綺麗な表面だけ見つめて、見えない物には蓋をして。 佐藤は、こんな馬鹿げた二人の『純愛』の犠牲になったんだ。 ーー月明かりに照らされて、今彼女は静かに涙を流している。 その涙は、綺麗な月の表面ばっかりを見ているようなキラキラとした『純愛』をしているあの人達には、決して届かない。 かすかな月明かりなんかじゃ、彼女の涙は誰にも気づかれない。
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