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待ち合わせは1年前のここだった。別に間に合わなかった訳ではない。前日からしっかりと準備をして、集合の1時間前には到着した。なのにヤツが「今年じゃダメだよ!来年来年!」などと口答えし、今日まで延期になった。
ここに来たのはちょうど一年ぶり。周りを見渡したが、まだヤツが来る気配はない。それにしても、何も変わっていない。そりゃそうか。だってここは山の中腹、あたり一面草っ原なので変わっていたほうがおかしい。
しばらくすると、ヤツが「おーい!」と大声を出しながらやってきた。夕陽をバックに登場してきたので、シルエットしか見えないが、学校で見慣れているその姿を見間違うはずがない。
「もう来てんの?早くない?」
「日が沈む前に来なきゃ、遭難しちまう」
「そしたらいっそ、遭難してみる?」
「死にてぇのか?」
「それもありかもね」
明るい。今日は快晴で半月だってまだ上の方だ。かろうじて東京に住んでいる僕でも、自然の明かりでここまで周囲が鮮明になったのは初めてだ。ライトを持ってこなくて、よかった。
暑い。12月14日。最高気温が11度と低く、今は夜。風だってあるはずなのに、暑い。というのも、左手にずっとヤツが絡まりついているからだ。
僕とヤツは適当に倒れこんだ。
「もうそろそろ、9時だってさ」
「そしたら、見える?」
「ああ」そして、1分とかからないうちに、流れた。
ふたご座流星群。僕はこれを見にここへ来たのだ。最寄り駅から電車で30分、そこから更に5分歩くとここに着く。去年ヤツが見つけた穴場だ。
「綺麗だな」僕が喋りかけた。
「…汚い」
「急にどうした?何か嫌なことでもあったか?」
「あった」
「…とりあえず、話してみろ。ちょっとは楽になるからさ」
「オレのママ、再婚したって知ってるよな?」
「もちろん」
「新しい男の人と今日、ケンカした」
「それで?」
「そのまま逃げ出して、電車に乗って、ここまできた」
「激しい喧嘩?」
「殴ったり背負い投げたり。良くは覚えてないけど家の中も荒れたと思う」
「つまり家出してきたのか」
「うん」
「…明日ぐらいは泊まるか?僕の家に」
「…ずっとお願い」
「流石にそれは無茶だよ」
「…暗い」
「そりゃ星明かりがあっても、昼と比べると暗」
「星なんてない」
「まあ、お前は元から右眼が見えないからな」
「両目」
「…」
「その男、酒癖が悪くて、それで、酔った勢いでオレを殴ってきた。左眼を。何発も殴られて、前が見えなくなって、それで、なんとか逃げ出してきた。ここまでの経路は覚えてる」コイツ…
僕は途方に暮れるしかなかった。
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