聖夜の準備の劇と歌

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 午前十時、礼拝室に集められた子供達の前で、牧師が降誕劇の説明をした。  難しいことは分からない子供達だけれど、イエス様の誕生日が今年もきたんだと言えばその目はきらきらと輝いた。年長つばめ組と年中うぐいす組は去年も経験しているから理解も早い。年少こまどり組の五人だけがきょとんとしている。  主役のマリアと天使ガブリエルは、ソロで歌うこともありつばめ組の園児から選出している。基本的にやりたい役に立候補してもらって、被ればじゃんけんだ。 「はじめてのクリスマス」という絵本を読んで聞かせてから、牧師が言った。 「それでは、マリア様の役をやりたい子はいるかな?」  子供達が顔を見合わせている。……誰も手をあげない。 「うーん。それじゃあ、天使ガブリエルの役をやりたい子は……」  瞬間、つばめ組の女子全員──といってもたったの三人だが──が手をあげた。具体的によく分からない「マリア様」よりも、天使という響きの方が愛らしいイメージがあるのだろう。それに女の子達にとっては、ぼろ布を頭から被っているマリア様よりも、羽をつけて白いドレスを着る天使の方が魅力的なのだ。 「困ったな、まさかこんなにガブリエル候補がいるとは」  見谷牧師が笑って、手をあげた三人の女の子達を前に呼んだ。 「それじゃあ、じゃんけんで──」 「ちょっと待った」  突然、俺の隣に立っていた勇星が牧師の言葉を遮った。「ゆ、勇星?」ぎょっとして視線を向ける俺に目もくれず、つかつかと説教壇の方へ歩いて行く。  そして三人の女の子達に向かって、勇星が言った。 「ユリカ、真梨香、早苗。お前達が全員天使の役をやりたいのは分かった。お前達、歌は好きか?」 「うん」 「好き!」  頷いたのはユリカと真梨香。 「あんまり自信ない」  俯いて言ったのは早苗だ。  よし、と勇星が頷いて、見谷牧師を振り返り、言った。 「この三人は俺に任せてくれ。隣の教室借りるぞ、親父」 「あ、ああ。構わないが……どうするつもりだ?」 「メインの配役を決めてくる。他の役は適当に決めといてくれ」  勇星が三人を礼拝室から出し、自分もそれに続いて出て行く。  一体どうするんだろう──俺も牧師も海斗も、恐らく残った子供達も全員、そう思ったはずだ。 「それじゃあ、マリア様と結婚するヨセフの役をやりたい子はいるかな?」  気を取り直して牧師が言うと、つばめ組リーダー格のカズマサが手をあげた。 「はい! おれやります!」 「おお。ありがとうカズマサ、頼んだよ」  その後も順調に役は決まって行き、俺は年少こまどり組の子供達がちゃんと舞台に上がったり引っ込んだりできるようにと、補佐として一緒に羊の役をやることになった。 「よろしくな、道介」 「うん!」  羊飼い役の一人である道介と顔を見合わせ、笑う。  それから休憩を取って礼拝室でしりとりが行なわれる中、俺は牧師に言ってからつばめ組の教室へ勇星の様子を見に行った。
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