聖夜の準備の劇と歌

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 それから「弥平」を後にした俺達は、コンビニで水と明日の朝食を買ってアパートへと帰宅した。  五畳のワンルーム、ロフト付き。勇星がここに転がり込んできてから約四か月。男二人で住むには狭く、気を付けてはいるけれど何しろ木造のアパートだから、俺と勇星の夜の「音」とか「声」が隣に響いている可能性もあって、来月には2DKのマンションに引っ越す予定となっている。そろそろこの部屋ともお別れだ。 「音弥くん、布団敷いてくれ」  部屋に上がるなり床にうつぶせる勇星。そんなに酔っ払ったのか、もはや一歩も動きたくないらしい。  ローテーブルを隅に寄せて布団を敷き、勇星の体を引きずってその上に仰向けで寝かせる。この分だと風呂は明日の朝になりそうだ……思ったその時、勇星に腰を絡め取られた。 「わっ」  そのまま抱き寄せられ、勇星の上に覆い被さる恰好になる俺。視線が近い──酒臭い。 「ちょっと、勇星……放せって」 「いいだろ別に、いつもこうして寝てるしよ」 「着替えくらいさせてくれってば」 「脱がしてやろうか」 「結構です! ……んぅっ」  後頭部を引き寄せた勇星が、俺の唇を下から塞ぐ。酒のせいか体が熱い。勇星の舌もまた熱かった。 「はぁ、……」 「ん、んう……ゆう、せ……」  このままだと俺まで寝不足になる。週初めは──月曜日の夜はしないって、決めているのに。 「ひっ──ぁ、急に……! もう!」  セーターが中のシャツごと捲られて、露出した胸板に下から口付けられる。酔っているせいかいつもよりずっと勇星の舌が熱くて、十月の夜気との温度差に鳥肌が立った。 「やめ、ろって……勇星っ……」 「こういうエロい恰好してるとさ、エロい気分になってくるだろ」 「な、何言ってんだよぉ……あっ!」  勇星に覆い被さった状態で床に肘をつき、成すすべなく下から乳首を吸われる。まるで搾乳みたいだ。──思った瞬間、恥ずかしさにまた体温が上がった。 「んっ、や……。恥ずかし、……」 「取り敢えず抜いとくか」  俺の乳首を舐めながら、勇星がベルトを外した。ついでに俺のベルトも外されて下着ごと下ろされ、勇星の上で尻が丸出しの状態になってしまう。 「擦って、音弥くん。ほら」 「こ、これやだ……」  勇星のそれに自分の屹立を擦り合わせながら、俺は小さく喘いだ。腰を動かすたびにベルトの金属がかち合って音をたて、更に俺の顔を赤くさせる。 「あぁ、あ……」 「これ好きだよな、音弥。まだケツの方は慣れてないだろうし」 「変なこと、言うな、ぁっ……」 「体起こして、好きなように擦っていいぞ」  言われて、俺は何を考えるでもなく身を起こした。触れ合った勇星と俺のそれを両手で包み込み、何度も何度も、腰を前後させる。 「すっげ、……音弥くんそれ気持ちいい」 「お、俺も、……」  この恰好だと、何だか俺が勇星を犯しているみたいだ。恥ずかしいのに、見られたくないのに、腰が止まらない。 「んっ、ん、……ふ、うっ……勇星、……」 「あー、そのまま、イきそうかも……」  眉根を寄せて感じている勇星を見ていると、俺の気分も高まってくる。俺達は服が汚れるのも気にせず、欲望のままに溜まっていたものを吐き出した。 「……すげえ良かったぞ、音弥くん」 「……馬鹿……」  ぐったりと倒れ込んだ俺を抱きしめた勇星が、そのまま一分もしないうちに寝息を立て始めた。  エロいことが好きなのも、終わったらすぐ眠くなるのも、今どきの男って感じだ。勇星は二十六歳の若者で、見た目に関して言えばその辺を歩いている男と何も変わりはない。 「勇星、風邪引くから風呂入って着替えて布団で寝ろよ」 「んあ……」  だけどこの馬鹿面が、まさか指揮者を目指していたとは誰も思わないだろう。楽譜さえあればどんなに難しい曲でも初見で弾けてしまうなんて誰も思わないだろう。その指を振ればどんなに音痴でも最高の声を出せるようになるなんて、誰も思わないだろう。 「ほら、勇星。起きろって」 「うん……」 「俺も風呂入るから、ほら。一緒に」 「……ん」  やりたくないこと、面倒臭いことには頑として腰を上げない頑固さも、また我が道を行く音楽家っぽくはあるけれど。……頼むから、風呂だけは入ってもらいたい。
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