花鳥風月

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「朝に一度水やって下さい」  お前の言いつけを今日も守る 湯呑みも二つしっかり揃えて  お前にも茶を毎朝 「キレイに咲けよ」と口に出る  男が花に何を言う 少し恥じては 吹きだして  その容姿に見惚れてる まだ見ぬ美しさが  満開前のそれこそが 男の浪漫を掻き立てる 恋を思い出す 愛しき婆さんよ 若かりしお前を 花に例えた恋文も 褪せて 滲んで 愛しき婆さんよ 時の流れで色褪せ 何が流れて 下手くそな字を滲ませる これからも末永く 恋人でいようじゃないか 「我侭」という言葉ですら  知らぬ時代のお前の 喜ぶ顔が見たかった  急な遠出の「鶴」の理由 「綺麗ですね」とお前  何も言わずに頷き その美しさを収めようと レンズを向ける 愛しき婆さんよ この曲がった背中に鳥のように羽があれば すぐに会いにいけるのに 愛しき婆さんよ 横顔の写真に 馬鹿なことつぶやいて また寂しくなる 花揺らし 鳥立つ風の 吹く月夜 書き出す詩に 己を見れば  少し寂しさ まぎれてくれる いやいや ただ恋を謡おうか 愛しき婆さんよ  もう三度目の春一番だよ  お前を連れ去って 愛しき婆さんよ  そっちはどうだ?良い所か?  もうすぐ 俺も行くから  月眺め そう思う 愛しき婆さんよ  生涯を越えて  時ある限りお前を 愛したい これからも末永く 恋人でいようじゃないか あの世でも 何度でも 恋人でいようじゃないか
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