MEMORY

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敦志の腰に手を乗せる。 ずり下ろされた下着が太ももあたりで窮屈そうだ。 マシーンにスイッチを入れたと同時に下着をひんむいた。片方の足首にひっかけてそのまま腰周辺を丁寧に消毒。 脱脂綿を上下に動かすと含ませたアルコールがツッと滴った。 冷たかったのだろう、敦志の尻の筋肉がピクリと反応する。 筋繊維の盛り上がりは順に背中まで連動していき、かすかな肉体のさざ波を見た。 「じゃ、いきますね。力抜いて動かないでください」 「うす、お願いします」 言ったそばから全身が固まって、彼が息を止めたのが伝わってきた。 なんていい眺めなんだろう。小さな小さな小部屋の中、俺らの吐き出す息が混じりあってく。 なんていい時間なんだろう。誰にも干渉されず誰にも見られず、誰にも邪魔されない。 なにより、おれ自身の脳みそが全部を遮断して、敦志だけのことを考えている。 俗念から解放され、終始まとわりついているアイツの影も敦志の影に隠れ、今はかすかな匂いも放っていない。 一時の自由を俺はこの時感じていた。そしてそれを嬉しいと思っていた。 ーーー三時間。 一度も止まらず、ひたすら無言、終始敦志の息づかいを感じながらB5サイズの本日の目標達成。 「お疲れさまでした。終了です、動いていいですよ。タバコどーぞ」 ふぅっ、っと肺の限界を感じさせるような長いため息。 ずっと抱き締めていたクッションを放り、施行台の上から両手をダラリと垂れた敦志はしばらく屍のように身動ぎひとつしなかった。 タバコと。 椅子に座った黒いドレスに赤い口紅のアメリカ女性が、上半身裸の髭男にタトゥーをいれてもらっている人形がついた陶器の灰皿を敦志の頭上に並べて置いた。 「クククッ」 いつのまにか白黒のチェッカーボード・チェックの床上に、パンツはハラリと落下したまま。 それは股間を隠すという任務から外され、自分の存在を主が早急に思い出してくれるのを待つように足を滑り込ませればそのまま履けるような姿で床の上にあった。 「なんで笑うんだよ。まじ、試練っすねこれ。やべぇ、まじ疲れたぁっ!」 徐々に体力が回復してきたのだろ、今度はジタバタと暴れだす敦志。放り投げたクッションに行き場のないエネルギーを投げつけてる。 まぁ、ただ真剣にクッションに噛みついたりボフボフと顔面ダイブしてるんだけどね。 分かりやすいやつ。感情と行動が直結していて見ていて爽快。 俺とは真逆だ。 んなとこが妙に俺の興味を駆り立てる。 合わさった視線を一度はガッチリ受け止めるくせに、何を思うのか必ず先に視線を切る、そして誤魔化すようにヘラヘラとバカな事を言い出す。 わかるのは、その数秒の間に敦志の中でいろんな感情が一度に駆け回っているんだろうなってこと。 きっと、そんな自分の感情をこいつは整理できていない。 整理しようともしないまま、こいつは名前も分からない多数の感情とにらめっこしてはうつ向いて、にらめっこしては放り投げしてるんだろう。 「暴れ終わったら飯くおーぜぇ」 俺が全部引き出して、お前の中身整理してやる。綺麗に片付いたお前の中には、当然のように俺だけの住みかが塔高くそびえたっているだろうよ。 コイツは俺が見つけた。俺に見つかった。そして、俺と一緒にいる。 だから、コイツは俺のものになる。俺はお前の全部がほしい。全部出せ、全部俺によこせ。 ぜんぶ。
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