MEMORY

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「ワ リ ト ? ふーーーん割とね。んなふうに見えねぇし感んじねぇけど?俺はかなり会いたかった。今夜逃したらまた一週間会えねぇ。だから俺は敦志が来てくれてものすげぇ嬉しい。ありがとな」 季節は秋。俺たちが出会ったのはほんの2ヶ月前。 ネットでタトゥーショップを検索して、問い合わせの電話を寄越してきたのが始まりだった。 1ヶ月の予約待ちを経て、打ち合わせを始めたのが一ヶ月前。はじめて敦志の面を見たのがその日だ。 俺らはお互い愛想笑いが上手い。相手に調子をあわせるのも上手い。 だから、場の空気が揚々としたものだったのは必然的だった。 でも。 そんなのは建前で、ただのスキルで、誰とだっていくらでも同じ関係が安易に築ける。一言も本当の声を掛けることなく過ぎていく。 「そーゆー事をいちいち言うなよ。困んだろ?いや、嫌じゃなくて迷惑で困るとかじゃなくて。だーっ!俺も会いてぇなって思ってたんよ」 ガシガシと豪快に頭をかいてやがる。というより、もはや頭を抱えそうな勢いだ。 「じゃあ、いい。あと3回でそれ仕上がるんだけど。その後も俺とこうして会ってよ。つーか、時間あえば敦志の時間全部俺といてよ」 全部よこせ。 時間も、体も心も全部。全部俺によこせ。 「あははっ、全部?そんなにいたら俺はお前に飽きられる。でも、わかった。彫り終わっても会いにくんよ。つーか、俺も会いてぇ」 照れ臭そうな顔。 そのくせ真っ直ぐに俺を見る目は、一切の揺れを感じさせないものだった。 この時。 こいつだと。この男だと。俺が欲しいのは敦志だと。 そう感じていた確信はより強く俺の中に浸透していった。奥の方まで、じわりじわりと奥のまた奥まで。 もっと深い深淵に、おれ自身も近寄らない。 ずっと昔から一度も動かず、岩から染み出た雨水が溜まったような場所。静かでそこへ通じる道すらなくて。 でも、確実にその奥深く底知れない場所は俺のここにあって。 そこが、敦志の真っすぐな目を見て。その薄暗い場所に透明の滴が一滴ポチャリと落ちて。そのたった一滴がどこまで広がっているとも知れない湖畔に波紋を広げた。 輪唱するように、さえずるように。ポチャリと滴った。
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