MEMORY

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※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 「おい、丹田を呼べ」 “おい“この一言で、ドア横に風神雷神を彷彿させる横顔で石像化した専属ドアマンが息を吹き返す。 「うっす」 「はぁ?仕事するんなら俺もぉ仕事いくけど」 雷神ドアマンが部屋から出て、丹田さんに連絡を入れているだろうと予想して真横のクソ野郎を一瞥した。 「少し待てすぐ終わる。今日は何食いたいか考えておけ。あぁ、そうだ桜牙(オウガ)お前、先月の世田谷の踏み倒しお前が運転してただろ。正樹の舎弟がその時の女に耳噛みちぎられたって騒いでたぞ」 脱ぎかけたコートを再度着込んだ俺に若こと晃司が、どうでもいい話を珍しくふって来た。 まっさんの舎弟? あぁ、アホな体制で女にしゃぶらせようと必死で頑張ってたアイツか。耳とか?チンコじゃなくてよかったじゃん。むしろチンコの方が世のためになったんじゃね?とか薄ぼんやり思ったが踏み倒された額の3分の2も未だに未回収の事実の方が気になった。 最近は会社絡みでしか大口で金を貸すことはほぼない。もっぱら平和ボケした主婦相手に月末に3万とか2万とか貸しまくってる。1万とか5千円とかもざら。 俺思うんだよね。あの人ら金を何だと思ってんだろうって。旦那の給料日までそこ数日、どうしてあるだけの金でどうにかしようって思わねぇのかなって。 そこ数日、生活費が足んねぇから金を借りる。金がないから借りる、金がないから借りるはまだ分かるんだよ。足んねぇから借りるっておかしくねぇか? 足んねぇなら足りるような生活をしろよ。初めはビビって恐る恐るだった主婦も二度、三度繰り返すうちに自分が誰から金を借りているのか忘れてしまうらしい。 そして給料日にきっちり2万5千円返済。そしてまた月末に借りたいと連絡してくる。 返せなくても2万ぐらいどうにでもなる、5万ぐらいすぐ工面できる、20万ぐらい親がどうにかしてくれる。 自分以外の誰かがどうにかしてくれる。実際確かにどうにかなる。どうにかなるのを知っているいるからこっちも金を簡単に貸す。 少額貸し付けの相手はケースバイケースだがジャンプやって2回。カード1回未払いでもうるせーぐらい電話してくるカード会社よかお優しい。 優しいのは確実に回収できて、きっちり優しさ代まで払えそうな客にだけ。 返済分の金の出所は能無しの親。 知らん、私達は一切払わない。そう言ってこの人らを追い返す奴等を俺はまだ見たことがない。 張本人はといえば、物凄く気楽な調子で友人以上、恋人未満の相手に連絡寄こすみてぇに“今月も足りなーい、持ってきてぇ”といった感じだ。 ここの人らも小奇麗なスーツに物腰低く、若くて面のイイ面子揃えて金貸ししてる。世間話とかするし、大変ですよねぇとか、いつでも力になりますとか。にこやかにスマートに、まさしく接客してる。 まぁ、まっさんとこの若いのみたく耳かじられただの、腕折られただの、頭割られただのって生臭い事もしょっちゅうだが。 誰にもばれずに気楽に簡単に金を貸してくれる相手。おかしいっしょ、世の中どうかしてる。
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