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「随分とお楽しみのようだなオウガ」
強烈な既視感。前後の脈略もなしに突然支配者の顔が浮かぶ。ゆったりと微笑むその手には鎖、地を這い恐怖で俺を繋ぐ強固で忌々しい鎖。
奴の高揚のない低い声に心臓がひきつけを起こす。まともに機能しているとは思えない。何、この息苦しさ。呼吸ってどうやってするんだった?
あぁ、これか。生きた心地がしねぇってやつ。
叫び出したい衝動。
完全に思考が停止しそうだ。
「…………。」
首を回そうにも体が動かねぇ。何か声に出さねぇと、なのに声が出ねぇ。何でこうなった、どうして奴がここにいる。完璧に隠せていたはずだ。何故、何故、何故、何故。
目の前の最悪に思考が極端に狭くなる。何の生産性もない非合理的な事しか浮かんでこない。今ここで何故だ、どうしてだと嘆いたとこでどれも逃げ道に繋がんねぇってに。
クソが、とんだポンコツだ、俺は。
敦志の存在だけは奴に絶対に知られたくなかった、何をしてでも隠しておきたかった。何度でも嘘を塗り重ねて、結果敦志が悲しんだとしても、苦しんだとしても、絶望させたとしても、隠し通したかった。
いや、隠し通さなきゃなんねぇんだ、絶対に。この男を失うわけにはいかない、この男だけは、敦志だけは絶対に。
「……悪趣味だな。もう少し待てねぇの?終わったら行くし。車で待ってろよ。なんなら混ざる?」
何事かと体を起こそうとする敦志を全力の力で押さえつけ、照明を完全にオフにする。
焦って早口になるな。
なんでもねぇって装え、余裕かませ、誘ってる面してアイツを見ろ。大丈夫だ晃司からは見えねぇ、血の気の引いた俺の顔も、完全に萎えて縮こまった股間も、乾いた口も、…敦志も、見えやしねぇ、大丈夫だ。
「なっ!おい、どしー」
よほどの力で押さえつけられ、ただ事ではないと察した敦志が無理やりにでも俺を払いのけようとする。
頼むよ、起きねぇでくれ。アイツに面を見せるな、頼むよ敦志。
言葉を遮るために唇を覆った。
まだ足りない。
「いい眺めだ、続けなさい」
奴に心臓を素手で捕まれたまま、晃司の視線を誘導するため大げさな動きでペニスをあてがう。強度を失いかけた敦志のナニを穴に擦りあて無理やり先っぽをねじ込む。
折れないよう根元を強めに握って腰を落とした。2、3度腰を振るとあっというまに強度を取り戻し俺の中を押し開いた。
「ちょ、何してんだ、おい、ちょ、抜けよ」
「何ってセックスしてんだろ?じたばたすんなって。いいじゃん観客がいたって減るもんじゃねぇんだし?俺はねぇ見られんの興奮すんの。敦志のすげぇ気持ちいぜ、ほら、俺を鳴かせてみろよ」
余計な事を叫ばせないため鼻先で声をかける。異常な状況なのは百も承知。それでもただ平坦に、肉欲を満たす行為を日常の一コマとしてここでやっているだけだと見せるんだ。
特別なものなど一切なく、ただ貪欲に欲を満たしているのだと。
他に方法があるか?俺には思いつかねぇ。他にこの男から敦志を守る方法など考えもつかねぇ。俺から敦志を取り上げさせねぇ方法などこの時の俺には思いつかなかったんだ。
思いつかなかったんだ。
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