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「急いでくださいよ。時間押してるんすど」
木造住宅の廃れた階段を登って、錆だらけの軋む重いドアを押し開ければ。
「お、おぉ、ちょ、待て。あとちょい」
完全に瞳孔の開ききった女。
生白い足首を掴まれ片方の乳房を揺らしながら、打ち付けられる腰の動きに合わせて少しづつ畳の上をずり上がっていく。
「長いんすよ、早くしてくださいまじで。次俺待ってるんすから」
スマホをいじりながら、部屋の隅でいくつろいでやがるもう一人の若い男がさほど興味もない口ぶりでそう言った。
「うっせぇな、今いいとこだろうが。黙ってろ」
四角い部屋、女を犯す男と、順番待ちの男、それを見てる俺。
衣服が散乱しているわけでもなく、女が抵抗して部屋を荒らした形跡もない。
下着すらそのままに、ただの注射器が一つ離れた台所の床に転がっている。ただただ、ここに可愛そうで哀れでむごたらしい女の人が1人、声も出せずに虚空を見つめていて。
俺はというと何度言っても同じことを繰り返すこの低能でバカな男たちに、心底うんざりしながら腕時計を睨み付けているだけ。
「勘弁してくださいよ。あと五分しか待ちませんからね俺。置いて帰りますからね。まじっすよ。ほんとにあんたら何やってんすか、バカですか」
触れたままのドアノブの温度が体全部に広がって、一滴の液体窒素が心臓にピチャン。
指先からなのか、心臓からなのか。パキパキと凍っていく感覚に思わずドアノブから手を引いた。
外は快晴。月が綺麗だ。
迷い込んできたばかりの10代だった子犬達は、5年もすれば成犬になる。歪んだ愛情と不健全な学習と、偏った考え方に塗り固められた子犬達は立派な犯罪者集団に成長する。
「ねぇねぇ、五分なんすかー?サービスしてよー。俺も抜いていきてぇんだけど。まっさん長ぇんだもん。あと10分?ね?いいっしょ?俺、まじ速攻出るから」
へへへっと笑いながら、ドアから眉毛が全滅した顔半分を出し、ヌッと俺の鼻先に現れたのは若い方の男。
遠慮のない距離にげんなりする。
「口が空いてるじゃねぇっすか。しゃぶらせて5分で戻って下さい。じゃ、俺下戻りますから」
あぁそうか、と小声でつぶやいてガシャンと重たいドアが閉じた。
遠い昔からの決まり事。争いごとの戦利品は女性で、食われる供物は女性。女性はいつも男がしでかした馬鹿のしわ寄せにその身をもって終わるはずのない対価を支払い続ける。
その身が終わっても支払い続ける。
この人もそうだ。焦げ付いた借金を残してとんだ彼氏の代わりに、自分から服を脱いだ。脱いで入れられて、あの場で何度中出しきめられても一円だって利息は減りゃしねぇのに。
769万の価値が自分の体にあると思っていたんだろうか。たった一回ぼろくそに輪姦されりゃそれで済むと本気で考えていたんだろうか。
正気に戻ったあの女の人に聞いてみよう。まだ生きていたら聞いてみよう。
10分の待機時間、そんなクソみてぇなことを考えていた。
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