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ふと思考を切ると、静寂が待っていたかのように俺の中を浸してく。
窓の外へ視線を置けば、やはりそこには平和な世界。まるで寝っ転がった菩薩さんのようだ。
物音もしない、ポツポツと家の明かりと街灯があるだけで。酔っぱらったサラリーマンが車の横をダラダラと通り過ぎていって。
こうしていつだってこの国は平和だ。
壁一枚、ドア一枚の向こうに、深刻そうな面作ってニュースが語ってるような酷ぇ事が昼夜問わず色を変え、形を変えてここに、本当にすぐそこにあるってぇのに。
――あ。
俺んちのメダカの瓶が頭に浮かんだ。透き通った中の水。あいつらガツガツ食うもんだから、俺はつい餌をやりすぎる。
すると翌朝水の底に白いモヤがかかるんだ。
ニシンの群れが我先にと、卵に精子をかけた直後の海みてぇな。底の方だけに出来上がったばっかの雲みてぇに、透明の中に不透明な白いモヤが湧き立ってる。
すくい取ろうと試みても、水の動きに合わせてモヤは広がって透明の中に紛れて見えなくなっちまう。
確実にこの瓶の中にいるはずなのに、どれだけ目を凝らしてみても、もう見えやしない。
丁度この世界のようだ。
そもそも高純度な綺麗で完璧な世界なんかあるわけねぇんだ。ちっぽけな瓶の中ですら不純物はいつも紛れ込んでる。
水面を泳ぐメダカはそれを気にする様子もない。放っておけばじわじわと自分を殺してしまう源なのに。
「残り2分ですよ。1分後に車に乗ってないと通報しますから。57、56」
ドアを全開に押し広げて今すぐこの部屋から撤収するよう促す俺。予想通りまっさんは未だ女の上で腰を振っていて。片割れはどうにか邪魔にならねぇように妙な体制で女の口にナニをねじ込もうと必死。
まっさんにバックでやってもらえば楽だろうに、何故未だに正常位。あんだけ足をひらけばアイツ股が破れんじゃねぇか?
「まじか、クソ、鬼だな。んだよこのアマ、ガバガバじゃねぇか」
まっさんはペニスを引き抜くと同時に掴んだままだった女の足を畳に叩きつけた。
「じゃ、明日この住所に来てね。ばっくれようとしても無駄だって分かってるよね?待ってるよ白井まどかさん」
若い方が紙切れを彼女の手に握らせた。反応があったのかどうかはここからじゃ確認できねぇ。
けど、彼女はきっと来る。逃げて逃げまくって助けを求めて、そして今に辿りついているのだから。彼女にこの後、この人らをまくような精神力が残っているとは到底思えない。
ソープで真面目に働いていた方がよっぽどこの人のためだ。
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