MEMORY

7/38
26人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
「あのクソガキぜってぇあぶり出して八つ裂きだ。てめぇが野糞なんかしてっから逃げられんだボケが。本部長にまたどつかれんだろうが。お前が代わりに死ね」 車内に乗り込むやいなや不機嫌絶好調のまっさんは弟分の後頭部を何発も叩きまくってる。 「すんません。すんませんけど兄貴の遅漏さらに酷くなってますってマジで。羨ましーっす俺3分持たねぇ。けど、そこまでなりたくねぇなー。出しそびれたしなぁ。あ、(オウ)さんこの後終わったら飯いきましょーよー飯。腹減ったっす俺」 車内が瞬時に雄臭さ満開。生っぽいメスの匂いと強い雄の匂いが混ざって思わず息を止めていた。 窓を全開にして、密封された車内から追い出したかったのはこの悪臭か、それとも報復を願う女の私怨か。 「明日今日の分、瀬川の実家に回収に行って下さいね。きっちり頼みますよ。それから今日みてぇな真似はよそでやって下さい。無駄な時間食うんですよ、何度言ったら分かるんすか?」 言ってみたとこで無駄なのは承知している。いつもこーだ。これはレイプではない。 いつもそーだ。女の方から願ってくる。私で勘弁して欲しいと。 いつもこーだ、理屈も道理も関係ない。 ただ、女が抱いて欲しいと言うからやっただけ。特別セックスしたかったわけでもねぇが、女が目の前で股を開けば、とりあえず突っ込むだろ。 毎回同じ会話の繰り返し。 4度目あたりから、俺も時間内であれば文句も垂れなくなっていた。 俺にとって押した時間をどう巻いていくか、そこが問題であって。 特に、今日の予約は外せねぇんだ。ったくこれだから嫌なんだこの人ら。 「おぉ任しておいてくださいな、みみ揃えて回収してきます。なもんで桜さん、その、なんだ。若には俺の方から報告させてもらえねぇでしょうか」 俺はよそ者だ。 ただのバイト。親父さんとは二度顔を合わせただけだし、この組織に恩も義理もない。 かといって俺は毒にもならねぇし、もちろん薬にもなりゃしねぇ。 俺はただのバイト。 俺にとっちゃ、べらぼうに割のいいただのバイト先。 でも、みんながなんとなく語尾に気を使うのは俺が若頭の女だから。 胸クソ悪ぃったらねぇ。 「なんすか?まさかまた死んだんですか?」 今夜の回収作業残に加え、都外までの往復、首都高ぶっ飛ばして帰っても予定時刻より4時間は遅れる。4時間、いや、朝までコースか。 それに、あの工場のおっさんが二つ返事で焼却炉開けてくれるとも思えねぇ。 だめだ、本気めんどくせぇ。めんどくせぇなーもーーっ。 「飯はー?桜さーん、飯ーなにくー?中華ー?」 俺の仕事内容は単純明快。このバカな人らに円滑に仕事をさせること、以上。 なのに、毎度トラブルばっかで時間通りに俺が帰れたためしはない。 だからこっちのバイトが入っている日に、本職に被らせて予約を入れたりしねぇんだけど。 けど。 今日来る客は特別なんだ。 会いてぇ。 柄にもなくドはまりした。柄にもなく恋しいと思っている。柄にもなく触れることができない。 あぁクソ、アイツに会いてぇ。 「いや、生きてます、大丈夫。ただ先週のその“また”が。その、ね。わかるでしょ?なもんで瀬川の件は俺に話直接回してもらえねぇすかね、たのんますわ」 先週。 思い出したくもない。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!